高齢の祖母、危険すぎるお湯の沸かし方にネット民驚愕 認知症の専門家は「家電の替え方が重要」と説明
認知症と思われる高齢女性が、電気ポットの水をガスコンロで沸かそうとした光景が話題に。京都大学教授・木下彩栄氏は「認知症が進行すると、生活のための道具(主に家電製品)を使えなくなる症状が出てくる」と説明する。
完治が難しく、一生付き合わなければならないものも存在するが、病気の治療においては早期発見が重要なカギを握る。
現在X上では、高齢女性が自宅にて見せた「とんでもない行動」が話題となっているのをご存知だろうか。
■一歩間違えたら大事故に…
ことの発端は、とあるXユーザーが投稿したポスト。
「祖母が電気ポットに水入れてガスコンロで沸かそうとしてました。ガスは解約しました」という内容が綴られた投稿には、キッチンのガスコンロに電気ポットが設置された写真が添えられている。
本文にあるように直接火を当てたようで、ポットの下半分は真っ黒に焦げ上がっていた。

当該のポストは瞬く間に話題となり、Xユーザーからは「将来、自分もしてしまいそうなのが怖すぎる」「こういうケースって本当にあるんだ…」といった驚きの声が続出。
また、よく似た経験があるというユーザーからは「お年寄りとガスコンロの組み合わせは、本当に怖いんだよ」「義母は数年前、ケトルでこれをしようとしました」「家族も油断している、認知症初期の段階が一番危険です」といった体験談が寄せられていた。
■そもそも「認知症」ってどんな状態?
そこで今回は、認知症の影響と思われるこうした行動の詳細をめぐり、一般社団法人「日本認知症学会」に話を聞いてみることに。取材には、京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 教授・木下彩栄氏、助教・下坂桃代氏が対応してくれた。
今回話題となった投稿の写真を受け、木下氏は「認知症はとても経過が長い病態で、時期によって症状が異なります」と、説明する。
認知症の初期は「物忘れ」が主体となるが、進行すると生活のための道具(日常生活では主に家電製品)を使えなくなる症状が出てくるという。
こうした背景を踏まえ、木下氏は「生活のための家電製品が使えなくなると、この写真のような行動が見られることもあります。自分が思ったように上手くできないため、『何とかして対処しよう』と考えるのだと思います。例えば今回のケースですと、電気ポットで上手くお湯が沸かせなかった→ガスコンロで温めよう、というように考えてしまったのではないかと思います」と、分析していた。
しかし、いくら道具の使い方が分からなくなったとはいえ、なぜこうした危険な行動に出てしまうのだろうか。
その理由について、木下氏は「認知症では、まず記憶の中枢である海馬に障害が出現し、新しいことを覚えられなくなります。この部位に障害が出てくると、『新しい家電製品』などの使い方が覚えられなくなります」と、回答する。
つまり、今回のような事故を防ぐためにIH(電磁誘導加熱)機器を導入したり、便利だからとスマホを購入しても、記憶障害の影響で使い方が覚えられないのだ。
木下氏は「さらに、大脳皮質という部位に病変が及ぶと、言葉が上手く使えなくなったり、計算ができなくなったり、判断力が低下したり、物を上手く使ったりできなくなります。これは生活の障害に直結します。それに加えて『こうしたら危ない』『こうしたら事故に繋がる』という予測ができなくなり、判断力も鈍ってくるため、通常ではしないような危険な行為をしてしまうことがあります」と、説明していた。
■類似エピソードを聞いてゾッとした…
「火」や「熱」に関する認知症の危険な事例は多く見られるようで、木下氏はいくつかの例を挙げてくれた。
例えば「温度設定など細かいことができなくなる」事例で、これは入浴の際にお湯張りの温度が45℃に設定されており、気付いた家族が慌てて水を入れたという。
「石油ストーブの石油給油口が分からなくなる」事例では、ストーブの上から石油を注ぐという行動が見られたそうだ。
また、エアコンの「送風と冷房の違いが分からなくなる」という事例もあるそうで、これにより冬場にも関わらずエアコンの温度を17℃に設定して震えていたり、反対に夏場に暖房をつけてしまい、熱中症になりかけたケースもあるという。
「電子レンジの使い方が分からなくなる」という事例では、オート機能は使えるが、レンジとオーブン(トースト)機能の区別がつかなくなってしまい、間違えてオーブン機能(グリル機能)を使用し、食品を黒焦げにしてしまったそうだ。
こうした事例は自宅内で起こるものだが、「外出先のトイレで水洗ボタンが分からなくなる」という事例から、非常ボタンを押してしまった人物もいるという。
■認知症の「家電変えるコツ」を聞いた
科学の世界は日進月歩。日々新しい技術が開発され、新たな製品が我々の生活を便利にしてくれる。しかし、認知症の人物にとっては「新しい物」という存在が、マイナスに作用してしまうのだ。
このような実情について、木下氏は「物が使えなくなると、自立した生活が難しくなって介護が必要になるだけでなく、使い方を誤ると危険に遭遇するケースも増えてしまいます。特に現代の日本では、家電製品を使いながら生活することが必須であるため、自立した生活を維持するためには、使いやすい・使い慣れた家電製品を継続して使うことが重要です」と、分析している。
そうした背景を踏まえ、「安全性の高い新型の家電はインターフェースも大きく異なるため、認知症が進行してから導入すると、結局使えなくて困ってしまいます。そのためなるべく初期のうちに、特に『新しいことを覚える力が残っているうち』に導入すると良いと思います」ともアドバイスしていた。
例えば、認知症の人の中には「冷蔵庫の冷凍庫と野菜室の位置が異なるだけで混乱してしまう」人もいるという。このように、健常な人からすれば「こんな単純なことが!?」と驚いてしまう区別や判断が、認知症の人々には非常に困難なのだ。
そのため木下氏も強調するように、可能な限り「使い慣れたインターフェースの家電を使う」ことが重要となる。先の例で言えば、「冷凍庫と野菜室の位置が、以前使っていた冷蔵庫と同じものを選ぶ」といった具合だ。
ガスレンジからIHへ、全自動洗濯機からドラム式洗濯機へ、などの大きな変化が生じる際は、認知症になる一歩手前の時期(軽度認知障害の時期)までに済ませておくのが良いという。
やはり、認知症においても早期発見が重要なカギを握るのだ。とは言え、「ずっと使っていた物だから」と安心するのも早計。
木下氏は「実際に症状が進行して危険な行為が見られるようになった場合、特に『火』を用いる家電製品の使用の制限はやむを得ないと思います。そのため可能な限り、安全なものに代替していくのが現実的と思います」とも補足していた。
身内に高齢者がいる読者諸君は、日用品や家電の「使い方」を改めて確認してみてほしい。
■執筆者プロフィール
秋山はじめ:1989年生まれ。『Sirabee』編集部取材担当サブデスク。
新卒入社した三菱電機グループのIT企業で営業職を経験の後、ブラックすぎる編集プロダクションに入社。生と死の狭間で唯一無二のライティングスキルを会得し、退職後は未払い残業代に利息を乗せて回収に成功。以降はSirabee編集部にて、その企画力・機動力を活かして邁進中。
X(旧・ツイッター)を中心にSNSでバズった投稿に関する深掘り取材記事を、年間400件以上担当。道路・鉄道ネタに関する取材で、国土交通省や都道府県警、全国の道路事務所、鉄道会社に太いパイプを持つ。
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(取材・文/Sirabee 編集部・秋山 はじめ)




