デジタル化する注文方法や、効率的な客の回転システム… 「飲食店」について思うこと

【松尾貴史「酒場のよもやま話 酔眼自在」】デジタル化が進んだことで飲食店によって注文方法が変わった昨今。便利な一方で感じることとは…。

2024/02/18 07:00

居酒屋

最近は、料理を注文するにも、スマートフォンにQRコードを読み込ませて、そこから注文するという店や、テーブルにタブレット端末が置いてあって、それを客が操作して注文するという店が増えて、店によって方式が違い、おっさんにとってはそこはかとない負荷がかかる。

電子音が鳴るものもあるが、「あいよ」「かしこまりました」などと返事があるわけではないので、オーダーが通っているのか不安になることも多い。


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■デジタル化する飲食店の注文方法

客が操作するものでなくとも、大抵はグレーの、手帳のような形の電子端末が厨房に信号を送るものが使われるようになって久しい。

「僕は、A◎◎、この人はB◎◎をお願いします」と注文しようとしたら、その端末の形式なのか設定なのかで、「少々お待ちください。A◎◎はトッピングはどうされますか」「ゆで玉子を」「私も」「少々お待ちください。A◎◎のドリンクはいかがいたしましょうか」という調子で、一人分の注文が確定してから「こちら様は」と二度手間の注文をすることになる。紙でやっていれば書き足せるが、端末ではそうはいかないらしい。便利なんだか、不便なんだか。

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■高級飲食店の「きっちり2回転」

話は変わるが、近年、素材や調理法に一流のグレードを持った完成度の高い物を出してくれる料理店の一部が、「きっちり2回転」というスタイルを採用している。

たとえば、カウンターの店で夕方6時に1回転目、8時半から2回転目で、7、8人から十数人の客をきっちり捌く形のシステムだ。高級(な値段の)鮨店や和食店に多いが、中には焼鳥やフレンチ、イタリアンなどもある。

そして、大抵は予約困難店だ。人気があるからニーズがあるということで何も問題はない。単に好みの話なのだけれど、じつはあまり好きではない。なぜ、見ず知らずの人たちと「せえの」で飲食を始めなくてはならないのか。ならなくはなくとも、なぜか厩舎の鶏のような気分になる。

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■思わぬ金額の安さに感じる心地良さ

店にとっては、在庫管理が容易になる。何人×2回転という簡単な計算で食品ロスも少なく、必要以上にマグロを切ったり焼き鳥を串に刺したりすることもない。同じ作業を固めてできるので作業効率もいい。

ならば、値段が安いかと言えば、そうではない。むしろ、そういう店のほうが割高のことが多い。中には、これだけのものをこの値段で、という店もある。つまり、それだけの効率的な段取りをしているからこそ、その分安くしてくれているという店だ。

私の知っている心斎橋の居酒屋は、カウンターに6人から8人くらいで2回転という店だが、絶品の料理と酒で「こんな値段でいいんですか」というものを出してくれて、勘定のときの気分の良さは半端ではないが、ほぼ常連ばかりで、顔見知りも多く、ストレスが極めて小さい。以前は、1人ならばふらりと入れることもあったが、今ではやはり予約困難店になってしまった。

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■「先の長い予約」に思うこと

私の好きな食べ物は、その頭文字を取って「かそぎやす」と言っている。カレー、蕎麦、餃子、焼き鳥と焼肉、寿司という、どれも衝動的に食べたくなるものだ。

「小腹が空いたから蕎麦でも手繰りたい」「ちょっと一杯寿司でもつまんで」というノリが性に合っている。「来年まで予約でいっぱいですねん」という店には、おそらく自分では行くことが一生ないと断言できる。

ある知人が京都の鮨店に行って、美味かったので「また来たいです」と言ったら「へえ、6年先になりますけど」と言われたそうだ。6年後に寿司を食べたい気分だかどうだかわからないではないか。その知人は、近年癌の手術をして、5年生存率が何%と言われている人だ。

そして、その店が6年先に存在しているかどうかもわからない。そんなに先の予約を受けるというのは、かえって無責任な気がするのは私だけだろうか。

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■著者プロフィール

松尾貴史

Sirabeeでは、俳優、エッセイストの松尾貴史さんの連載コラム【松尾貴史「酒場のよもやま話 酔眼自在」】を公開しています。ワインなどのお酒に詳しい松尾さんが「酒場のあれこれ」について独自の視点で触れていく連載です。今回は、デジタル時代の飲食店での注文方法、客の回転スタイル、そして予約システムの変化に焦点を当てたエピソードを掲載しました。

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(文/松尾貴史

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