【舛添要一連載】アメリカ大統領選挙、4つの事件で起訴されたトランプの「返り咲き」はあるか
【国際政治の表と裏】11月に行われるアメリカ大統領選挙。4年前と同じくバイデン対トランプの争いになる公算が極めて高い。
■予想通りの結果
トランプ(77歳)が51.0%、フロリダ州知事のデサンティス(45歳)が21.1%、元国連大使のヘイリー(51歳)が19.1%、実業家のラマスワミが7.7%であった。最下位のラマスワミ(38歳)は指名レースからの撤退を表明し、トランプ支持を表明した。
直前の14日の「リアル・クリア・ポリティクス」の世論調査によると、全米の党内支持率は、トランプが61.4%、ヘイリーが12.0%、デサンティスが10.7%、ラマスワミが4.3%であり、それに近い結果となっている。
トランプは、連邦議会占拠事件など4つの事件で起訴されているが、それはマイナスになるどころか、支持層の団結に役立っている。バイデン政権による政治的迫害だという主張が岩盤支持層に受け入れられているからである。
■トランプ人気の高さ
グローバル化が進むと、安価な外国製品が流入し、苦境に立つアメリカの産業が増えてきた。そのため、保護主義的なムードがアメリカ国民に広がってきた。それに着目して、「再びアメリカを偉大に( Make America Great Again)」をスローガンにして、2016年の大統領選挙を制したのがトランプである。
しかし、トランプは、2020年の大統領選ではバイデンに敗れた。トランプの支持者の多くは、この選挙が不正なもので、本当はトランプが勝っていたと信じている。
また、トランプは、「自分が大統領だったときには、ウクライナでもガザでも戦争は起こらなかった」と述べ、今のバイデン政権を厳しく批判する。内向きになったアメリカ国民にとっては、他国の戦争よりも移民の不法流入のほうがより深刻であり、トランプは、それを防止するためにメキシコ国境に壁を作った。当時、民主党は猛反対したが、昨年10月にバイデンは、壁の建設を再開することを明らかにした。
2020年の大統領選では、バイデンは、「自分が当選したら、もう壁は1フィートたりとも作らない」と約束していたのである。このようなバイデンの変節もトランプ人気につながっている。
■福音派の影響力
アメリカでは、聖書の言葉をそのまま信じるキリスト教の福音派が強く、国民の20〜25%を占めている。妊娠中絶、同性婚などに反対する。また、新約聖書のみならず、旧約聖書も一言一句を信じるので、ユダヤ人が建国したイスラエルを支持する。福音派の8割が支持するのは共和党である。
トランプは連邦最高裁に3人の保守派判事を送り込んだ。その結果、保守派判事が過半数を占め、2022年6月、妊娠中絶を憲法上の権利と認めた判決(ロウ対ウェード判決)を49年ぶりに覆した。
また、ゴラン高原のイスラエル支配を認め、米大使館をエルサレムに移した。イスラエルはこの対応に喜んだ。
妊娠中絶反対、イスラエル支持という2点について、トランプが大きな成果を上げたとして、その功績を福音派は高く評価する。とくに、アイオワ州では有権者の過半数が福音派である。
■アメリカ大統領選挙の仕組み
民主党、共和党は、予備選や党員集会で各州に割り振られた数の代議員を選ぶ。代議員は夏に開かれる党大会に出席し、候補を決める。そのため、候補者は各州で代議員の獲得競争に鎬を削るのである。
こうして指名された両党の候補による本選挙が11月5日に行われる。有権者は、候補者に投票するのではなく、「候補者に投票する選挙人」を選ぶ間接選挙である。候補は、538人の選挙人の数を競うのであり、過半数の270人以上を獲得した候補が当選する。
アイオワ州に続いて、2月3日には、共和党と民主党によるニューハンプシャー州で予備選が行われる。そして、3月5日は、予備選と党員集会が集中するスーパーチューズデーである。
民主党では、バイデンの対抗馬はいない。焦点は、共和党がトランプで決まるかどうかである。トランプ再選となれば、二つの戦争の行方にも大きな影響を与える。また、アメリカの民主主義も変質する。今後の大統領選の展開を注目したい。
■執筆者プロフィール
Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。
今週は、「アメリカ大統領選挙」をテーマにお届けしました。
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(文/舛添要一)