海上自衛隊の船の中はどうなっている? 元自衛官が見学して目撃したリアルな状況

地域の祭りや行事に合わせて車両や艦船を一般公開している自衛隊。元自衛官の筆者が、海上自衛隊の艦艇「とよしま」に乗って感じたことは…。

2023/12/23 07:00

海上自衛隊

9月29日に劇場公開された海上自衛隊にまつわる映画『沈黙の艦隊』。内容もさることながら、艦船に乗ってみたいと思った人は多いはず。あまり知られていないが、映画に出てきたような船に一般人が乗れる機会がある。海自の船の一般公開の様子を元自衛官の筆者が明らかにする。


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■車両や艦船を一般公開

自衛隊は、広報や地域との連携強化を目的に、各都道府県に自衛隊地方協力本部(以下、地本)という組織を設置している。陸海空自衛官と防衛省の事務官により構成された地本は、募集や広報、地域との連携を業務としている。自衛隊は、地域の人々の理解や協力が無ければ、平時はもちろん有事の際も活動できないため、この連携は重要だ。

地域の祭りや行事に合わせて、自衛隊は車両や艦船を一般公開している。有事の際には、住民の避難や施設や土地の借用、情報提供などの円滑化がカギとなるため、平素からの理解と交流が不可欠である。艦艇や自衛隊車両の一般公開はこの一環だ。主に地本が企画運営し、陸海空自衛隊が人員や装備などを支援して行われる。

今回潜入した艦艇「とよしま」は、掃海艇(水中に仕掛けられた爆弾を除去する船)だ。福岡県北九州市の行事の際に、一般的な港に停泊し、老若男女問わず多数の民間人が乗船し、見学を楽しんでいた。福岡地本の担当者の案内に従って受付が行われた。

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■海上自衛官の練度に驚き

船に乗り込んでまず思ったのが、大きな船にも関わらず、内部が非常に狭いということだ。通路はすれ違うのが大変なほど狭く、階段にいたっては頭を下げなければぶつけてしまうほど。角度はとても急で、踏面も狭い。慣れていなければ、転落する恐れも大いにある。運動神経には自信のある筆者でもゆっくり慎重に降りることしか出来なかった。

そのため、案内してくれた艇長の降下速度に度肝を抜かれた。小刻みな音とともに走るように階段を下り、ほぼ一瞬で下の階に移動しており、おそらくジャンプするより速かった。長い階段ではないものの、一瞬で大差を付けられてしまった。思いもよらぬところで、海自の練度の高さを知ることとなる。

さすが、世界に誇る組織海自だ。冗談でも何でもなく、階段を速く降りるということは、海上自衛官にとって大切な能力だと推察する。筆者も自衛官だったため分かるが、自衛隊における1秒というのは大変価値がある。その1秒間に魚雷やミサイルはとてつもない距離を移動する。階段を悠長に降りている余裕などどこにもない。

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■船内に娯楽はない

海上自衛隊

読者の中には、客船等の大きな船に乗ったことがある人もいるだろう。その場合は売店やリラクゼーション空間などが整っているが、自衛隊の船の場合は任務に関する設備以外用意されていない。前述の通り大変狭い船内で、とても無機質だ。海自の船はどれもそのような造りだ。

売店も無いため、提供される食事以外の飲食物は隊員持参の上だ。今回の掃海艇の場合、個室があるのは艇長のみであり、他の隊員のプライベート空間はベッドの上だけだ。ベッドといっても、二段や三段と大変狭くなっている。このような環境であるが、最近の娯楽はスマートフォンが主流のようだ。

ただし、電波は入らないので、ダウンロードした動画等を楽しんでいるとのこと。運動は大きな船であれば甲板の上を走るなどしている。閉鎖的な空間だからこそ、カレーをはじめとした海自の食事は美味しいのだ。筆者も陸上自衛官として山に長期間籠っていたときは、食事の時間を心待ちにしていたのでその気持ちはとても理解できる。限られた娯楽や空間の中でささやかな楽しみを見つけて、モチベーションを保っていた。この過酷な経験を経て沢山の物事に感謝できるようになったので、とても感謝している。

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■現場の自衛官は何を思っているのか

自衛隊は謎に包まれた組織である。自衛隊が近傍にある地域の人以外、普段関わることは少ないと思われる。自衛官とはどんな人々なのか気になる読者もいるだろう。今回一般公開されていた掃海艇とよしまの艇長である三浦1尉に、こんな質問を行った。「緊張する国際情勢であるが、今後どのようなことを意識して取り組まれるのか。」と。

すると、三浦1尉は自信満々にこう即答した。「これまでと変わらず、ただ日頃の成果を発揮するだけです」と。その潔く毅然とした様子を見て、いかにも自衛官らしい頼もしさを感じた。

筆者が接してきた自衛官たちも、覚悟に満ち溢れた、崇高な人々であった。もちろん大組織であり、陸海空と文化や日頃考えていることも多様であるので、一括りにすることはできない。とはいえ、自衛官が積んできた経験や磨き抜かれた覚悟は大変勉強になる。身近に自衛官がいなかったとしても、このような行事で出会った際にぜひ話してみてほしい。OBとして、少しでも多くの人々の理解が得られることを、切に願っている。

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■執筆者プロフィール

安丸仁史(やすまるひとし):1994年福岡生まれ、福岡育ち。防衛大学校(人文・社会科学専攻)中退後、西南学院大学文学部外国語学科卒業。 2017年陸上自衛隊に幹部候補生として入隊。

職種は普通科で、小銃小隊長や迫撃砲小隊長、通訳などを務める。元レンジャー教官。自称お祭り系インスタグラマー。お祭りとパンクロックをこよなく愛する。

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(取材・文/Sirabee 編集部・安丸仁史

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