【舛添要一連載】安倍派の裏金疑惑、自民党は「派閥」そのものを見直すべきだ
【国際政治の表と裏】安倍派のパーティー券問題が自民党に逆風を吹かせている。派閥はなぜ残り続けるのか、改めて考察する。
自民党安倍派の政治資金パーティーを巡る問題で、日本の政治に激震が走っている。世論の批判を浴びて、岸田文雄首相は安倍派の大臣、副大臣らを交代させた。
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■政治資金規正法の重み
派閥の政治資金集めパーティーで、ノルマ以上のパーティ券を売却した議員が派閥からキックバックを受け、それを政治資金収支報告書に収入として記載していなかったという問題である。
私は、自民党の国会議員時代には、どの派閥にも属していなかった。したがって、派閥の政治資金パーティーにも関わったこともないし、キックバックなどは無縁の話である。
私は都知事の2016年に、国会議員時代の5年間に政治資金収支報告書の「支出」の項目に約30万円の記載ミスがあったことを指摘された。この件について、東京地検特捜部は捜査の結果、不起訴とした。私は、本件についてお詫びをし、反省し、都知事を辞任した。
それだけに、巨額のキックバック分が政治資金収支報告書に不記載だという今回の安倍派の疑惑については愕然とした。
■派閥の機能
自民党の派閥については、本連載の23回目(4月30日配信)で論じたが、安倍派の裏金疑惑が発覚した今、派閥についてさらに掘り下げてみたい。
派閥の最大の目的は、自分たちのボスを総裁、つまり首相にすることである。派閥が大きければ大きいほど、その可能性は高まる。
派閥は「カネとポストの配分単位」でもある。派閥の領袖は、部下に政治資金を配り、選挙を助けることによってメンバーを増やす。
議員が派閥に入ることの意味は、選挙支援を受けることとともに、大臣、副大臣、政務官というポストに就任できることである。本人の能力とは無関係に、当選〇回なら政務官、〇回なら副大臣、〇回なら大臣と、エスカレーターのように出世の階段を上っていく。当選6〜7回にもなって、大臣になれない議員がいると、派閥の推薦枠でなんとか閣僚にする。
■中選挙制度が生んだ仕組み
派閥は、かつての中選挙区制度と密接な関係がある。一つの選挙区の定数が3〜5人であり、多くの政党が候補者を出すが、自民党は複数の候補者を立てる。各候補はそれぞれ別の派閥に所属する。親分は皆違うのである。4人の自民党候補者がいる選挙区で5番目に立候補しようとする者は、4人とは別の派閥に行かざるをえない。だから派閥が5つになるのである。
選挙では自民党候補同士で自民党票の取り合いをすることになり、野党との競争よりも激しい戦いとなる。同じ政党なので、政策ではなく、カネの争いとなってしまう。派閥の親分はカネを配る能力がなければならない。田中角栄は、その能力に秀でた典型的ボスである。
この「カネのかかる選挙」が問題となり、中選挙区制を廃止し、小選挙区制にしたのである。定数は1なので、自民党からも1人しか立候補しないからである。
小選挙区制になれば、中選挙区制と連動していた派閥は無用となるはずである。
■派閥が無くても必要な機能は代替できている
派閥には、新人の教育という機能もある。派閥は、1年生議員に、礼儀作法、政策、選挙の戦い方などを教育するのである。しかし、今の自民党には、派閥がなくてもその機能を代替できる仕組みができあがっている。
毎朝、早起きして党本部に行けば、政務調査会の様々な部会が勉強会を開いている。朝ご飯を食べながら、各省庁から来た役人たちの説明を聞き、政策を学んでいく。自民党議員であれば、誰でも、どの勉強会でも出席できる。
そして、その場で先輩議員が礼儀作法も教えるし、官僚との付き合い方もまた学ぶ。選挙も、自民党を代表して1人しか立候補しないので、党全体がカネも人も、応援弁士も手配してくれる。
私は無派閥であったが、4つの内閣で大臣となっている。派閥はもはや必要不可欠なものではないのである。派閥そのものを見直す時期に来ているのではないか。
■執筆者プロフィール
Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。
今週は、「派閥の役割」をテーマにお届けしました。
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(文/舛添要一)