無印良品の有料「紙バッグ」、ある日だけ“無料”だった経済的な理由とは?
【鈴木貴博『得する経済学』】普段、紙バッグを1枚10円で売っている無印良品。しかし、ある日なぜかそれが無料に。裏にはとある経済的な意図が…。
「今日は紙バッグを無料で差し上げていますが、お使いになりますか?」
そうレジで訊かれてその日は無料のバッグをもらうことにしました。
東京・新宿の無印良品でポロシャツを買った時の話です。普段であれば服を小さくまるめ、手持ちのバッグの中にきつきつに入れてしまうのですが、本当は無印良品のしっかりとした紙バッグで持ち帰った方が楽なんです。でもなぜこの日は紙バッグは無料だったのでしょうか。
■脱炭素がきっかけのショッピングバッグ有料化
無印良品だけではなく、ユニクロやジーユーなどアパレル大手チェーン店は、最近どこでも紙バッグをサイズに関係なく1つ10円で販売するようになりました。それは政府のエコ政策と関係する話です。
スーパーのレジ袋が有料化したのはもう3年前の2020年7月の出来事です。当時、地球温暖化を抑止するための脱炭素について世界的な会議が行われて、日本は10年間で47%も脱炭素を進めることを約束しました。
その具体的な施策として始まったのがレジ袋の有料化です。この施策、石油の使用量を減らすためには地味に効果がある施策になりました。なにしろ有料化の後ではレジ袋(プラスチックバッグ)を辞退する人が全体の8割にのぼるようになったうえに、国民のエコ意識も高まったのです。
さて、実は紙バッグについては石油を使う製品ではないということもあり、特に国の施策として有料化が決まっているわけではありません。プラスチックバッグが有料になったことでアパレルチェーンなどでは逆にプラスチックバッグをやめ、無料の紙バッグに切り替えるところも出てきました。
■紙バッグだって本当は有料がいい
とはいえ紙を作るためには森林の伐採が必要になります。そして紙バッグの原価はプラスチックバッグよりもお高いのです。ですから地球資源の保全を考えれば、やはり紙バッグも数を減らしたほうがいいわけです。そこで多くのチェーンが紙バッグを1つ10円に設定することで使用量を減らそうとしているのです。
ここまでが皆さんご存知のショッピングバッグ有料化の話なのですが、では冒頭の出来事はいったい何だったのでしょうか?
セルフレジでいただいた紙バッグを見て、その理由がわかりました。それは無印良品おなじみの“茶色い紙にえんじ色”でロゴが書かれたバッグではなく、ちょっと目をひくカラフルなデザインの紙バッグでした。そしてそこには「新宿靖国通りに新しい無印良品のお店が新規開店する」と告知が書いてあるのです。
■持った人は無印良品の広告塔に
そうなのです。わたしがこの紙バッグに商品を入れて新宿駅まで歩いて電車に乗り、最寄りの駅で降りて家まで帰る道中、このバッグを目にした人は、新宿に新しい無印良品のお店が開店するのだなということが目に入るのです。
つまり、エコとか循環経済とは関係なく、今回無料でもらえた紙バッグは広告宣伝のメディアのひとつ。わたしは便利な屋外広告として無印良品の役にたったというわけです。
謎は解けましたが、一応、わたしも名のある経済評論家です。広告のお手伝いをしてそのギャラは10円だと考えたら、無印良品、なかなかお得にお店の宣伝をしたことになるのではないでしょうか。
■著者プロフィール
Sirabeeでは、戦略コンサルタントの鈴木貴博(すずきたかひろ)さんの連載コラム【得する経済学】を公開しています。街角で見かけるお得な商品が「なぜお得なのか?」を毎回経済理論で解説する連載です。
今週は「10円の紙バッグを無料で配る無印良品の意図」をテーマにお届けしました。
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(文/鈴木貴博)