熊被害が急増、“クマ擁護派”の「人間が悪い」論に被害者親族から怒りの声
過去最悪ペースで報告が相次ぐクマによる人的被害。「人間のせい」というクマ擁護派の声も一部で上がっているが、被害者親族はどう感じているのか。
クマによる人的被害が急増している。ネットでは、一部ユーザーからクマ側を“擁護”する声が上がっているが、親族が被害に遭った人たちはその流れをどう感じているのか。取材した。
■過去最悪ペースで進む人身被害
環境省が1日に発表した「クマ類による人身被害」データ速報値によれば、2023年度は10月末までに全国で合計180人がクマに襲われており、クマ出没が頻繁に報告された19年度(157人)、20年度(158人)を約半年で上回るという最悪ペースとなっている。
中でも被害数が急増しているのが秋田県。47都道府県でワーストとなる61人が被害を受け、2位に岩手県の42人、3位に福島県の13人と続いている。
■存在感増す「擁護派」の声
ネットでは連日、クマによる被害とその駆除がニュースとして報じられている。そんな中、コメント欄に必ずといっていいほど存在するのが「クマは臆病で人は襲わない」「殺さず保護するべき」「自然をいじくり倒した人間のせい」という、擁護の声だ。
しかし、大勢を占めるのは被害者を思いやるコメントと、駆除を進めるべきという声で、「机上の空論」「だったら現地でクマと対話してこい」と擁護派を否定する意見も多い。この状況を、秋田の住民たちはどう思っているのか。クマの出没が相次いでいる秋田・由利本荘市の70代男性に話を聞いた。
■「従兄がクマに襲われた」
秋田駅から車で約1時間30分、鳥海山の麓で代々農家を営んできた男性は、4年前に従兄がクマに襲われた。
「従兄夫婦が山菜とタケノコを採りに山に行ったら、突然背後から熊が飛び出してきて、従兄が襲われたんです。無我夢中で手足をバタつかせて追い払うも、顔を何度も食い散らかされてしまい、ドクターヘリで救急搬送。顔の形成手術を何回も繰り返していますが、それはそれは酷いものでした。これまで何度も行った山で、クマに襲われたなんてことは一度も聞いたことがなかったんです」(農家の男性)。
その頃から、山のみならず自身が管理している田畑周辺にも熊が出始めたという。
「9月、うちのお墓の掃除に行ったらクマがいたんです。偶然クマが逃げていったので良かったですが、ニュースでよく聞く『目を見ながら後ろに下がる』なんてやる余裕は全くなかった。想定していない場所にいるもんですから。その時は市にすぐ報告しましたが、農家をやっている仲間には役所関係者立ち合いの手続きが面倒だからと、連絡しない人もいる。報告されている数字以上に遭遇数は多いのだと思います」と続ける。
■「とんでもない話」と憤る男性
ネットの一部に上がるクマ擁護論についてはどう感じているのか。男性は憤りを隠せない。
「とんでもない話。地元でそんなことを言っている人は誰もいません。近くのリンゴ農家は、今年クマの被害でリンゴをほとんど食い荒らされた。対策として自動的に追い払う音の出る高価な機械を設置していたそうですが、それでも来てしまう。収穫予定だった野菜や果物が減り、対策費用もかかり、そんな苦しい状況で『人間のせいだ』と追い打ちの言葉を投げる人が同じ日本にいるのか。理解に苦しみます」(農家の男性)。
秋田県内では8日、市街地にクマが出没し40代男性がけがを負っている。深刻化するクマによる獣害。ネットで平和な言い争いが展開される一方で、現地では死活問題となっている。
■執筆者プロフィール
キモカメコ佐藤:1982年東京生まれ。『sirabee』編集部取材担当デスク。
中学1年で物理部に入部して以降秋葉原に通い、大学卒業後は出版社経て2012年より秋葉原の情報マガジン『ラジ館』(後に『1UP』へ名称変更)編集記者。秋葉原の100店舗以上を取材し、『ねとらぼ』経て現職。コスプレ、メイドといったオタクジャンル、アキバカルチャーからスポーツまで精力的に取材しつつ、中年独身ひとり暮らしを謳歌する。
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(取材・文/Sirabee 編集部・キモカメコ 佐藤)