あまりに精巧すぎる「切り絵」作品がネットで話題、製作に何日かけたのか作者を直撃した
ネットで話題呼ぶ緻密な切り絵作品。作者はどんな思いでこれを作り上げたのか。そこには熱い思いが。
『檸檬』などの代表作で知られる、文豪・梶井基次郎。そんな彼には他にも『櫻の樹の下には』などの名作もある。その物語をまさに”手に取るよう”読めるようにした作品が、ネットで「凄すぎる」と話題を呼んでいる。
■桜の樹の下には屍体が埋まっている
「桜の樹の下には屍体が埋まっている」とコメントを添え、画像を投稿したのは、X(旧・Twitter)ユーザーの切り絵作家 梨々さん。
画像は確かに基次郎のその作品の文章だが、手に取るように透けている…? どういうことかといえば、これじつは文章を全て切り絵で表現したという。しかも文章の下部は枝のように線が伸びていて、その先には骸骨や動物の骨が。そう、まさにこの恐ろしいタイトルのように…。
これは繊細すぎて凄い。そして見ていくうちに、その不思議な世界観に魅入ってしまう。
桜の樹の下には
梶井基次郎「桜の樹の下には屍体が埋まっている」 pic.twitter.com/gm1FhDLwC7
— 切り絵作家 梨々 (@ririkirie) October 12, 2023
■梶井の詩を選ぶセンスも好き
基次郎の詩を文章ごと切り絵にするという今回の取り組みへの反響は多く、「すごい‥」「素晴らしい 本当に素敵ですし、梶井の詩を選ぶセンスも好きです! 壁に飾りたい」「めちゃくちゃ好きです すごすぎます…!」と絶賛の声が上がっていた。
記者は、繊細かつ大胆な作品を制作した投稿者・梨々さんを取材した!
■製作時間は150時間
梨々さんは今回、何故基次郎の文章を切り絵にしようと思ったのか?
「『桜の木の下には屍体が埋まっている』という、強烈な台詞は幼い頃から桜を見て美しいと思う度に思い出すセリフでした。ある程度大きくなり梶井基次郎の作品だと知り、初めて文章を読んだ時のねっとり絡みつく、美しいものへ対しての畏れが、今でも形を変えて私の中の価値観へと影響を及ぼしており、その言葉を感情を衝撃を作品へと昇華したいと思い、この文章を選びました」(梨々さん)。
この作品の作業時間は、150時間くらい。おおよそ3週間で、1日集中力できる日は17時間程制作に向き合ったというから驚きだ。
こだわりポイントは、基次郎の思う「美しいからこそ恐ろしくおぞましく、ただただ美しいだけの事は無い」という思想をそのまま具現化しようとしたこと。そのため、文字から伸びる根が屍体に伸びていく様子を、美しさと恐怖を感じられるような形になるように作画したそうだ。
難しかったところは?
「濁点のひとつでも切り落としてしまえば終わりなので、作業が進む度に緊張していきました。切り絵は綱渡りの様な緊張感があります。一瞬の油断。1ミリの誤差で作品の生死は変わります。なので、少しの狂いも無いようにと最新の注意を払い制作しました」(梨々さん)。
■『モチモチの木』の切り絵に感動して
切り絵を始めたきっかけは、小学校の国語の教科書でみた『モチモチの木』の挿絵でおなじみの滝平(たきだいら)二郎の切り絵。絵に刃物を添わせて切った時の難しさや、紙で絵を表現するということに感動を覚えたという。
これまで、切り絵とは違うたくさんの絵を描く道具を試し、自己表現を重ねてきたという梨々さん。その中でも切り絵というものが性に合い、極めたいという気持ちで今も続けているという。
今後作りたい作品は?
「紙の美しさや、和紙千代紙の伝統を後世にも伝えられるような作品を作りたいと思っています。誰かの心に強く残る作品が作れたら、1人の制作者としてとても報われます。これからも私にしか出来ない作品を作り続けることを目標に頑張っていきます」(梨々さん)。
自身のアイデンティティとして、繊細で素敵な切り絵の世界を極めている梨々さん。今後の作品にも注目していきたい。
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(取材・文/Sirabee 編集部・黒森ぬぬ)