自殺の名所で暮らし160人超の命を救った男性 家に誘い話を聞き続けた50年間
自殺の名所に暮らし、多くの人の命を救った男性。亡くなる前は、数々の栄えある賞を受賞していたという。
■自宅のそばは自殺の名所
オーストラリアのシドニーに暮らしていたドン・リッチーさん(享年86)は、生前約50年にわたり「ザ・ギャップ(The Gap)」と呼ばれる風光明媚な海岸のすぐ近くに自宅を構えていた。
しかし美しい眺めを臨められる一方で、自殺の名所として有名な断崖だった。かつて1年間に50人以上もの人たちがそこから海へ身を投げて自ら命を絶っており、ドンさんは大変心を痛めていたという。
■自宅に誘い聞き役に
ドンさんは自殺者を1人でも減らそうと、ザ・ギャップに住むことを決意。以来、神妙な面持ちで断崖を歩く人たちを見付けては、「うちに来てお茶かコーヒーを飲みませんか? ビールもありますよ」と話しかけた。
当たり障りのない質問をするとほとんどの人たちが受け入れ、自宅で悩みや不安をひたすら聞き続けた。特にアドバイスをするわけでもなかったが、そうすると不思議と彼らは自殺を思いとどまり、帰って行ったという。
■「話を聞いてもらう場が必要」
ドンさんは第二次世界大戦時に海軍下士官として従軍し、その後は企業のビジネスマンとしてキャリアを築いた。
心理学やメンタルヘルスの専門的な資格を取得していたわけではないが、「彼らはきっと話を聞いてもらう場が必要だったのでしょう」と話す。
そうして50年間で救った命は160人以上にものぼると言われ、2006年「自殺防止プログラムを通じた地域社会への貢献」によりオーストラリア勲章を授与された。
■数々の受賞歴
さらに2010年、この地域の評議会はドンさんと妻のモヤさんを「今年の市民」に選出。その翌年には「ローカル・ヒーロー」にも選ばれた。
ドンさんは2012年に86歳でこの世を去ったが、彼が救った人たちのなかには、亡くなる直前まで夫妻と連絡を取り続けた人もいたという。
そんなドンさんは、「全員を救うことはできなかったかもしれませんが、とても誇りに思います」と明かしていた。
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(文/Sirabee 編集部・桜田 ルイ)