「アマゾンの返品」が誰でも簡単に行えるのはナゼ? そこには同社の明確な狙いが…
【鈴木貴博『得する経済学』】アマゾンで買い物をしたら初期不良品が届きました。しかしアマゾンはここからの返品がじつに楽ちん。なぜそうなのか、考えたことありますか?
「おや、これは初期不良にあたっちゃったな」
パッケージから開封してパソコンにつなげたばかりの新品マウスでしたが、クリックボタンが反応しない。というか右クリックと違って左クリックは押してもカチっと言わないのです。
金曜日に事務所のマウスが壊れました。そこで帰宅前にAmazon(以下、アマゾン)で新しいマウスをポチっておきました。アマゾンプライムに入っているので月曜日の出社時には置き配で新しいマウスが届いているので大丈夫と思っていたわけです。
■届いたマウスが不良品。最初にやることは?
荷物はちゃんと届いていたのですが、肝心の中身が初期不良で使い物になりませんでした。たいしたことではなくても物事が思い通りにいかないときはちょっとだけ気が滅入るものです。
ただ読者のみなさんもご経験があるかと思いますが、アマゾンの場合はここからがとても楽です。返品のプロセスをみなさんと一緒に振り返りながら、なぜアマゾンの返品が楽なのかを経済の側面から解説してみたいと思います。
まず最初にやることはアマゾンの注文履歴を開いて「商品の返品」のボタンを押すことです。そうすると「返品の理由」のタブが表示されるので「商品に不具合がある」を選んで説明欄に「初期不良。クリックができない」と記入します。「次へ」ボタンを押すと返金か交換かが選べます。
■ヤマトの営業所に持ち込んですぐに返品完了
今日の仕事に使う必要があるためマウスはこのあと近所のショップで購入することにして、今回は返金を選ぶことにしました。アマゾンのわたしのアカウントにギフトカード残高を戻してもらう形で申請します。
すると無料で返品できるQRコードが発行されます。開封したマウスをもとのパッケージに戻したら、ヤマトの営業所に持ち込んで現地にある端末「ネコピット」でラベル印刷して貼り付ければ、それで返送手続き完了です。
さて、この記事の本題はここからです。クイズにすればこんな問題です。「なぜアマゾンの返品はここまで簡単なのでしょうか?」
■他のサイトだとさすがにここまで簡単ではない
たとえば他のサイトで注文をした商品が初期不良だったときには、メールその他でお店に連絡をして返品の相談のやりとりを何度かしなければいけません。善良なお店の場合は返品に応じてくれる場合が多いとは思いますが、そのあとで宅配便の伝票に自分で記入をして返送手続きをしなければいけません。
また今回のようなケースでは「初期不良なので交換はOKだけど、返金はだめです」という対応になるお店もあるでしょう。
その場合、今日の仕事から必要だったマウスなので、代わりの商品が届くまでなんとかしなければならない。仕方なく今日買ったマウスと、新たに明日届くマウスがダブるというちょっと面倒なことになったりするかもしれません。
■簡単な返品プロセスには巨額の投資が必要
アマゾンの場合はそのストレスがない。その理由はこの「かんたんな返品プロセス」がアマゾンという企業の看板商品だからです。競争上の優位性として重視していると言い換えたらもっとわかりやすいでしょうか。
実はアマゾンがこれだけ簡単な返品プロセスを作るために、アマゾンは莫大な金額のIT投資をしています。金額が巨額であるからこそ、他のECサイトはなかなか同じようなものを作れない。結果として相対的にアマゾンの方が便利になる。だからみんながアマゾンを使うようになる。ここがアマゾンの戦略上の狙いなのです。
経済の知識としてこれは当たり前のことですが、便利なサービスというものはコストはタダではないのです。タダではないからこそ他のお店はここまで便利には仕組みを作れない。わたしたちがアマゾンを便利に使えているのは、世界中を相手にしている巨大企業がそこにとてつもない投資をしてくれたおかげなのです。
■著者プロフィール
Sirabeeでは、戦略コンサルタントの鈴木貴博(すずきたかひろ)さんの連載コラム【得する経済学】を公開しています。街角で見かけるお得な商品が「なぜお得なのか?」を毎回経済理論で解説する連載です。
今週は「アマゾンの返品プロセスが楽な理由」をテーマにお届けしました。
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(文/鈴木貴博)