道端に落ちていた張り紙、クレーム内容に目を疑う… 「これは酷すぎる」と怒りの声
道端に落ちていた張り紙に、思わず目を疑う注意書きを発見。カエルの鳴き声をめぐるクレームが「信じられない」と波紋を呼んでいる。
6月といえば梅雨のシーズン。ジメジメした天気や気候は敬遠されがちだが、梅雨は梅雨で趣があるのも、また事実である。
以前ツイッター上では、そんな6月の風物詩に対する「予想外なクレーム」が波紋を呼んでいたことをご存知だろうか。
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■道端で「世知辛すぎる」張り紙を発見
まず注目したいのが、ツイッターユーザー・いもっちさんが投稿した1件のツイート。
「どこかから風で飛んできたヤツなんだけど世知辛い…」と綴られた投稿には「田んぼの持ち主さまへ」という書き出しから始まる、1枚の張り紙の写った写真が添えられていた。
張り紙の内容は「カエルの鳴き声による騒音に毎年悩まされています」「鳴き声が煩くて眠ることができず非常に苦痛です」「騒音対策のご対応お願いします」と続き、「近隣住民より」と締められている。
■「自分が引っ越せば?」と疑問の声
こちらのツイートは、投稿から数日で2万件以上ものRTを記録するほど大きな話題に。
他のツイッターユーザーからは「自分が引っ越せば良いのでは…?」「これを騒音と捉える人もいるんですね」「この人自身は、防音対策を施したのでしょうか」「田んぼとこの人の家、どっちが先にあったのっていう話でしょ」「流石に酷すぎる」など、疑問の声が多数寄せられていた。
ツイート投稿主・いもっちさんは、犬の散歩中に件の張り紙を発見したという。周囲の環境については「それなりに田舎で畑も田んぼもありますが、見つけた場所は住宅地です」「草むらも川も多いので、これからの時期(6月)は、めちゃめちゃカエルが鳴きます」と説明していたが、張り紙の人物とは違って、カエルの鳴き声については別段気にしていない様子だ。
果たして、張り紙にもあるようにカエルは人間にとって「害」のある、駆除されるべき生き物なのだろうか。またカエルがいなくなってしまったら、この世界にどのような影響が起こり得るのだろうか。
今回は、これらの疑問をめぐって一般社団法人「日本爬虫類両生類協会」に、詳しい話を聞いてみることに。その結果、カエルの置かれている「予想外の立ち位置」に、驚かされたのだった…。
■カエルの「害」と「益」を比べてみると…
今回の取材を快諾してくれた日本爬虫類両生類協会の代表理事・白輪剛史氏は、複雑な思いでこの張り紙を見ていたという。
まず、この時期に日本の田んぼで見られるカエルの種類を確認したところ、こちらはニホンアマガエル、ツチガエル、シュレーゲルアオガエル、トノサマガエルの4つに大別されると判明。
続いては「なぜカエルは田んぼに生息するのか」「なぜ田んぼで鳴き続けるのか」という基本的な2点について確認してみる。
これらの質問に対し、白輪氏からは「水辺に近い草むらなどは雨が降ると移動しやすく、カエルにとって大きな生息地になります」「この時期には繁殖を目的としており、カエルの鳴き声はオスがメスに対する求愛のアピールになります」との回答が。
鳴き声は当然、大きければ大きいほど有効なアピールとなり、鳴き声を発するのはオスだけである。話題の張り紙はカエルのが鳴き声を「騒音」と捉えていたが、他にもカエルが人間にとって「有害」と見做される要素はあるのだろうか。
白輪氏は「ガラス窓に張り付いただけで嫌がるようなカエルが苦手な人は、雨が降ったときに道路に出てきたカエルを見て、スリップ事故などを起こしてしまうかもしれませんね」「また昨今話題になったように、食べ物に混入してしまう事例もあります」と回答を寄せているが…これらの事例を見てピンと来た人もいるだろう。
そう、カエルは「集団で農作物を食い荒らす」といった明確な害をもたらす存在ではないのだ。白輪氏は「強いて言うならば、カエルの粘膜は毒性のため、アマガエルなどを掴んだ子供がその手で目を擦ってしまう…などのケースは危険です」とも補足していたが、これも「人間が無理にカエルに干渉した場合」のみに起こる事例である。
むしろカエルは蚊や、不快な害虫を主食とする生き物であり、農作物の被害を軽減してくれる非常に有益な生き物。さらに病気の媒介となる昆虫を捕食し、我々人間が病気になるリスクをも抑えてくれる、いわば「頼れる隣人」なのだ。
■もしも世界からカエルが消えたら…
そんなカエルがこの世からいなくなってしまった場合、我々の世界はどうなってしまうのだろうか…。こちらの疑問に対し、白輪氏は「人為的な方法でカエルを駆除した場合」と「カエルが自然と消失した場合」の2ケースを想定している。
前者の場合であれば「カエルのみ」を駆除する都合の良い方法など当然あるワケもなく、薬品などを使用すれば農作物や他の生物にも被害が及んでしまう。
後者の場合も、カエルがいなくなるとカエルを捕食するヘビ類がいなくなり、そうするとヘビ類を捕食する鳥類がいなくなり…と、生態系への大きな影響が考えられるのだ。そして当然、人間が病気になるリスクも増加してしまう。
白輪氏は、田んぼの食物連鎖におけるカエルの立ち位置を「非常に重要で絶妙な、替えがきかない存在」と強調している。それだけに、今回話題となった張り紙を見た際は落胆の気持ちが強く、「少なくとも、カエルが住んでいるところに、人間が引っ越してきたワケですから、先住民に『うるさい』と言っても仕方がないでしょう」「そんなことを言われる田んぼの持ち主も気の毒ですが、そうしたクレームがあり得る世の中になったことを、残念に思います」と、胸の内を語ってくれた。
白輪氏が代表理事を務める日本爬虫類両生類協会は、爬虫類・両生類の愛護や、適正な飼養管理に関する知識等の普及啓発を目的とし、日々活動している組織である。
じつは「動物愛護法」において、哺乳類、鳥類、爬虫類に属する動物は対象となるにも関わらず、両生類は対象外となるのが現状。そうした苦境ある両生類のため日々活動している白輪氏にとって、今回話題となったクレームのような事例は、本当に理不尽に感じられることだろう。
「鳴き声が全く気にならない」といえば嘘になる人もいると思うが、カエルが鳴き続けるのは年間を通じてもこの時期だけ。万が一、カエルの鳴き声にストレスを感じることがあった際は、カエルのもたらす偉大な恩恵を今一度思い出してほしい。