聞こえ始めた自民党と公明党の「不協和音」、次期総選挙で政界大再編の可能性も
【舛添要一『国際政治の表と裏』】1999年から続く自民党、公明党の連携。ここにきてその関係に綻びが…。
政治家にとっては、選挙が全てである。「猿は木から落ちても猿だが、代議士が(選挙で)落ちれば、ただの人」と言ったのは、池田勇人内閣のときの自民党副総裁、大野伴睦である。1963年10月23日に衆議院が解散された直後、選挙戦に向かう自民党議員を鼓舞激励した言葉だ。
■「三バン」とは?
1票差でも負けは負け。昨日まで「先生、センセー」と崇められてきた議員が、普通の人になってしまう。権力と権威を全て失うわけだから、何としても勝たねばならない。
選挙に勝つには、「三バン」が必要という。「看板」、「鞄」、「地盤」である。看板は知名度、人気度だ。鞄はカネである。地盤は親から受け継いできた地元の支援組織である。世襲議員は地盤で有利だ。タレント候補は看板で勝る。カネは、今は国が補助金を出すし、政党が面倒をみるので、一昔前に比べてカネがなくても立候補できる。
実際に選挙をやったことがないと分からない点が多いので、私の選挙を例にとりながら、話を進めていく。私の場合は、看板で圧倒的に他の候補者を勝っていたので、鞄も地盤もなかったが当選できた。自分の選挙戦をマスコミに報道されると一気に知名度が上がる。鞄については、有権者の寄付が、とくに無所属で出馬したときにはありがたかった。
■小選挙区比例代表並立制
衆議院選挙は、小選挙区比例代表並立制を採用している。有権者は1票を小選挙区の候補者個人に、もう1票を比例代表の政党に投票する。小選挙区と比例代表の双方に重複して立候補できる。小選挙区で敗退しても、惜敗率で比例代表で復活当選することも可能である。1度死んで、甦るので、「ゾンビ議員」などと呼ばれる。
この制度の基本は小選挙区制であり、一つの選挙区から1人しか当選できない。そこで、複数の候補者が乱立するよりも、与党も野党も候補者を絞り、1人にしたほうが勝つ可能性が高まる。そこで、たとえば自民党候補を公明党が推薦し、公明党の票を与えることにする。そして、その見返りとして、比例代表では自民党支持者に公明党と書いてもらうのである。これが選挙協力であり、公明党票が離れると、落選する自民党候補も出てくる。
公明党は、比例代表でかつては800万票を獲得していたが、今では600万票に減っている。その分、小選挙区選出の議員を増やしたいのである。2020年11月、衆院広島3区で河井克行元法相の自民党離党を受けて、斉藤鉄夫代議士を擁立している。
■区割り変更に伴う自公の対立
「1票の格差」を是正するために、衆議院の小選挙区の区割りを見直す公選法が昨年末に施行された。
25都道府県の140選挙区が対象だが、15都県で選挙区数が変わる。これが「10増10減」と言われるもので、増えるのは1都4県で、東京都5増、神奈川県2増、埼玉、千葉、愛知各県が1増である。逆に減るのは宮城、福島、新潟、滋賀、和歌山、岡山、広島、山口、愛媛、長崎の10県で、それぞれ1減る。
増えるところはよいが、減るところでは、1人現職議員が排除されることになるので、誰が貧乏くじを引くのか、その調整がたいへんである。
そのような中で、公明党は増えた小選挙区において積極的に候補を擁立する方針を貫きはじめたのである。昨年12月28日には、東京29区に岡本三成衆院議員、広島3区に斉藤鉄夫国交相を、今年になって3月9日には、埼玉14区に石井啓一幹事長、愛知16区に伊藤渉政調会長代理を擁立する方針を決めた。
そして、5月9日には東京28区に候補を擁立することを宣言し、自民党との対立が決定的になった。結局、5月25日に、公明党は、自民党の圧力に屈して候補者を立てないことにしたが、同時に自民党へ選挙協力しないことも決めたのである。こうして、自公の対立が先鋭化している。
自民党と公明党が連立政権を組んだのは、小渕恵三内閣のときの1999年であり、もう20年以上の連携である。公明党の協力がなければ落選する自民党議員も多いため、5月30日には、自公の党首会談が開かれ、「自公連立政権をしっかりと保ち、政治を揺るがすことがないよう継続していく」ことが確認された。
■維新・公明の関係も微妙
私は国会では、参議院比例代表に立候補したが、衆院の比例代表選挙とは異なり、自分の名前を書いてもらう必要があるので、公明党のみならず、自民党の候補者とも競合関係にあった。そのため、自公の連携など全く考えることはなかった。
都知事選挙のときは、自民党のみならず、公明党からも支援してもらったが、このときは公明党票が大いに助けになった。
このように、自民党議員の場合、選挙によって、また、候補者によって、公明党票のありがたさは変わるが、公明票が命綱である議員にとっては、自公の対立は死活問題である。
さらにこの問題の背景には、最近の日本維新の会の躍進がある。自民党にとっては、公明党よりも維新のほうが、政策的には近い。連立の相手を維新に変更するという選択肢もある。また、維新は、これまで公明党に配慮して候補者を立てなかった選挙区でも、次回は候補を擁立する可能性があり、維新と公明の関係も微妙になっている。
次期総選挙では、大きな政界再編成が行われる可能性もある。
■執筆者プロフィール
Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。
今週は、「自公対立」をテーマにお届けしました。
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(文/Sirabee 編集部・舛添要一)