急速に発展遂げる「韓国」 豊かさ、デジタル化、芸能戦略…日本の遅れは致命的である
【舛添要一『国際政治の表と裏』】十数年前は日本に“追いつけ、追い越せ”の立場だった韓国。しかし、その状況はすでに逆転しているように思える。
5月23日から26日まで韓国を訪れた。新型コロナウイルス感染症の流行で往来が規制されていたので、久しぶりのソウルである。韓国の新聞社が主催する日米韓フォーラムに参加するためである。
【関連記事】舛添要一氏連載『国際政治の表と裏』、前回の記事を読む
■ソウルの街が小綺麗になった
到着して、すぐに友人に会ったり、会合に参加したりするために、外に出たが、第一印象は街が小綺麗になったということである。東南アジアやインドなどの都市は、清掃が行き届かず、雑踏というイメージが強い。私は、そのような雰囲気が人間くささを感じて好きなのだが、かつてのソウルもそのような場所が多かった。しかし、今のソウルは整理整頓が行き届き、脱アジア、西欧化の方向が進んでいるような印象であった。
経済が沈滞すれば、そのようにはならないので、経済成長が進んでいると考えてよい。もちろんウクライナ戦争の影響で最近は諸物価が高騰していることは世界各国と同じであるが、2021年の韓国の経済成長率は4.15%であるのに対して、日本が2.15%である。
■韓国が一人あたりGDPで日本を抜く
実は、ウクライナ戦争以前から韓国のほうが日本よりも経済に勢いがあったし、今もそうである。
21世紀になってから、経済成長率は、常に韓国のほうが上である。たとえば、7.73% vs 0.04%(2002年)、3.69% vs 0.02%(2011年)、2.91%vs0.64%(2018年)といった具合である。
さらに言えば、韓国では物価上昇以上に賃金が上がってきたので、国民の生活が向上してきたが、日本では逆で物価上昇に賃金が追いついていない。そのために生活が豊かにならないのである。
日本経済研究センターの試算によると、一人あたりのGDPは、2022年は日本が3万3636ドルで、これは台湾の3万3791ドル以下である。2023年は、日本が3万3334ドルで、韓国の3万4505ドルに抜かれるという数字が出ている。韓国が、台湾、日本を追い抜くのである。
韓国は、半導体、電池、電気自動車、コンテンツなどの先端分野に大胆な投資を行っており、その効果が出てきたのである。それが生産性の向上に繋がったと言えよう。今、日本も政府の支援で半導体産業に梃子入れしているが、台湾や韓国を巻き返すのは容易ではない。
■デジタル化の進展
日本ではマイナンバーに関するトラブルが続出するという不祥事が続いているが、これではデジタル化が進展するはずがない。なぜ、こんな惨めな状態になるのか。それは、官主導のデジタル化で、民間の知恵が十分に活かされていないからであろう。
コロナ流行前から、韓国に行くたびにデジタル化の分野で韓国が日本より先に行っているのを実感していたが、今回、その思いをさらに強めている。空港での入国も、私は、日本出発前に事前に検疫申告をしていたため、簡単に通過でき、パスポートの審査も迅速であった。
羽田空港から出国するときには、デジタル審査が不調で、結局アナログ窓口に行き羽目になった。こういうことを続けているから、空港で長蛇の列ができるのである。
ホテルに滞在しても、スマホを使用しても、日本でよりも韓国でのほうが、はるかに使い勝手がよい。タクシーもEV化が進んでいる。
韓国は、デジタル化のためのインフラ整備で世界最高の水準に達している。それに比べて、マイナンバーカード騒ぎに見られるように、日本の遅れは致命的である。「井の中の蛙大海を知らず」という状況で、恥ずかしいかぎりである。これでは、日本経済が活性化するはずはない。
■エンタメも先を行く
フォーラムでの晩餐会で、韓国でトップクラスの5人組男性アイドルの歌を堪能したが、K-popをはじめ、韓国のエンタメ産業の発展も目覚ましい。この分野も韓国の重要な輸出産業となっている。
日本ではジャニーズ事務所関連の不祥事が明らかになっているが、残念なことである。このようなことが起これば、日本のアイドル養成にもブレーキがかかることになる。
韓国では、全国から広く新人発掘に全力を上げるために、公募で競争させ、選抜するシステムが確立しているという。エンターテインメントの分野は私の専門ではないので、正確な分析はできないが、韓国のエンタメ業界の破竹の勢いは羨ましいかぎりである。
■一方で桁違いの「少子化」が進行
韓国最大の問題は少子化である。少子化には日本や中国も悩んでいるが、2021年の合計特殊出生率は、韓国は0.81、中国は1.16、日本は1.30である。韓国は、まさに桁違いに低く、2022年暫定値は0.78である。この傾向が続けば、2700年頃には韓国は消滅すると言われている。
少子化の原因は様々で、日本の要因と共通なものも多い。子育てにカネがかかりすぎたり、未婚化や晩婚化が進んだりしたりしていることなどである。政府も対策に全力をあげているが、若者の意識は変わりそうもない。深刻な問題である。
■執筆者プロフィール
Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。
今週は、「韓国のいま」をテーマにお届けしました。
・合わせて読みたい→日韓関係の未来は変わるか? 「徴用工賠償問題」を理解するための基礎知識
(文/Sirabee 編集部・舛添要一)