トランプ元大統領「起訴」も支持率は急上昇 アメリカは2つに分断されている
【舛添要一『国際政治の表と裏』】起訴されたトランプ元大統領は無罪を主張。「魔女狩り」と見た支持者たちの反発が続いている。
3月30日、ニューヨーク州の大陪審は、トランプ前大統領を起訴した。容疑は、2016年の大統領選挙期間中に、不倫関係にあった元ポルノ女優などに口止め料を支払ったというものである。顧問弁護士のマイケル・コーエンを通じて支払ったが、弁護士費用と記しており、それが虚偽文書作成の罪に当たるという。
コーエンは、18年8月に連邦捜査当局との間で司法取引を行い、「トランプの指示で支払った」と証言して、連邦選挙資金法違反などの罪で、禁固3年の刑を受け服役した。トランプは、今回の起訴を「魔女狩り」と称し、「史上最高レベルの政治的迫害と選挙妨害だ」と批判している。
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■トランプが出廷し、無罪を主張
トランプは、4日、裁判所に出頭し、34の罪について起訴され、罪状認否で無罪を主張した。その後、トランプはフロリダの自宅に戻り、支持者たちを前に演説をした。
その中で、トランプは、「この事件を見た誰もが犯罪はないと言っている」として、「この偽の事件は2024年の大統領選挙を妨害するということだけを狙ったものだ。即刻取り下げられるべきだ」と述べた。また、「バイデン家で様々な犯罪行為が行われていたのは明らかだ。選挙前にその犯罪行為が明らかになっていれば違った結果になっていた」とバイデンを批判した。
前回の本コラムでは、「なぜアメリカで銃規制が進まないのか」という疑問に対して、アメリカ建国の歴史、アメリカ憲法などに関係づけて解説した。今回もまた、「アメリカの民主主義」の特色を説明しながら、一般の評論とは少し異なる切り口から、トランプの起訴について考えてみたい。
■モンテスキューの三権分立論
ヨーロッパの政治史を振り返ると、王様の独裁を牽制するために議会が権力を拡大し、王制を廃止したり、国王に政治的権力を持たせない立憲君主制に移行したりした。
そして、現代の民主主義国家では、議会が内閣総理大臣を決める制度(議院内閣制)や国民による直接選挙で大統領を選ぶ制度(大統領制)が導入されている。議院内閣制の場合、国会が「国権の最高機関」であるから、首相が独裁者とならないような歯止めが制度的に内包されている。しかし、大統領制の場合はそうではない。
この制度は、モンテスキューの言う三権分立を徹底させた政治制度である。行政は大統領が率いる政府、立法は議会、司法は裁判所と、三つの権力が分立しており、相互に牽制する。たとえば、アメリカ大統領は議会に足を踏み入れることはできない。また、議会両院で可決された法案を拒否できるが、両院の3分の2の賛成で大統領の拒否権を覆すことができる。また、議会は大統領と連邦最高裁判所判事の弾劾訴追・裁判を行うことができる。
この三権分立という仕組みの目的は、政府に巨大な権限が集中させないことである。
■連邦制の意味
これと並んで、独裁を生まないための工夫が、もう一つ施されている。それが連邦制である。中央政府の暴走を地方政府が止める、逆に地方政府の飛び跳ねを中央政府が抑えるというものである。建国の父、とくにジェームズ・マディソンが強調したのが、中央政府と各州政府との「抑制と均衡」の重要性であった。
このマディソンの精神が今もアメリカの民主主義に脈打っており、今回、民主党の強い地区、ニューヨーク州の大陪審が起訴したことは、共和党の政治家、トランプに対する政治的制裁の意味が濃厚である。捜査を主導しているのは、マンハッタン地区検察官のアルビン・ブラッグであり、民主党から推されて選挙で選ばれている。
トランプは、先述した演説で、ブラッグ検事について、「彼は『トランプ氏を捕まえる』と言って選挙運動をしていた人物だ」と厳しく批判している。
地方自治とはいえ、このように政治的色彩が濃くなると、国家というものの意味を考えざるをえなくなり、連邦制にも懐疑の念が湧いてくる。議院内閣制・大統領制、中央集権・地方分権といった仕組みは、いずれも完璧なものではなく、運用によって実際の効果は大きく変わってくる。
■トランプの支持率はかえって上昇
アメリカでは、起訴されようが、有罪になろうが大統領戦に出馬できないということはない。そして、起訴されたことがかえってトランプ人気を高める可能性もある。「魔女狩り」に対する反発は、トランプ支持者の間で高まっている。共和党支持者の間では、起訴後にはトランプ支持率は8%増えて、52%になっている。
アメリカは二つに割れている。バイデン政権は、この分断状況を修復して、アメリカは国民の結束と統一を実現することができるのであろうか。
■執筆者プロフィール
Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。
今週は、「トランプ元大統領起訴」をテーマにお届けしました。
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(文・舛添要一)