小学校襲撃で6人が死亡… アメリカで「銃撃事件」が消えない歴史的・宗教的な背景
【舛添要一『国際政治の表と裏』】アメリカ・テネシー州で3月27日に発生した小学校銃撃事件。なぜ銃の所持は規制されないのか、改めて考察する。
アメリカでは銃で撃たれて亡くなる人が後を絶たない。最近では、3月27日、テネシー州ナッシュンビルの幼稚園を併設する私立小学校で銃撃事件があり、子供3人を含む6人が死亡した。
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■銃撃事件が続くアメリカ
犯人は、子供の頃この学校に通っていた28歳の女性で、トランスジェンダーを名乗っているが、殺傷能力の高いライフル銃(AR15)と拳銃1丁を持っていた。犯人は駆けつけた警察官に射殺された。
銃乱射事件は、2020年以降、毎年600件を超え、2023年に入っても、わずか3週間余りで銃乱射事件は39件発生し、69人が死亡している。これほど事件が続くのに、なぜ銃を規制しないのであろうか。
■アメリカ憲法の規定
バイデン大統領をはじめ民主党は銃規制の強化を求めているが、共和党は賛成しない。それは、全米最大の銃ロビー「全米ライフル協会(NRA)」が共和党議員に多額の献金しており、共和党の反対で規制強化法は成立させるのが困難なのである。
また、規制反対派のほうが賛成派よりも運動の仕方が上手いという。ハンバーガーのマクドナルド店よりもガンクラブやガンショップの数のほうが多いことも、アメリカで銃規制が困難な理由の一つである。
そもそも、アメリカでは銃の保持は憲法上の権利である。アメリカ憲法修正2条(The Constitution of the USA, AMENDMENT II, 1791)には、“A well regulated militia, being necessary to the security of a free state, the right of the people to keep and bear arms, shall not be infringed.”、つまり「武器を保有し携帯する権利は侵されてはならない」と明言されているのである。
日本国憲法では考えられないこのような権利が認められているのはなぜなのか。
■アメリカ建国の理念「銃とキリスト教」
ヨーロッパから信仰の自由を求めて新大陸に渡ってきた人々が、危険(それは主として熊やオオカミなどの動物)と隣り合わせで荒野を開拓していくときに、身を守る銃などの武器は不可欠であった。憲法は、まさに開拓以来の歴史を反映しているのである。銃はアメリカの建国、アメリカの民主主義に深く関わるものなのである。
同時に、自然との闘いの中で、「心の栄養」を提供したのがキリスト教であった。荒野では獰猛な動物などから身を守るのみならず、孤独な環境で精神的にも強くなければ生きてはいけない。そこで、聖書を読み、神の加護を祈るのである。
神と直接に対話する、自らの命は自らで守る、それがアメリカの個人主義である。そして、人々は、信仰を絆としてお互いに助け合い、「神は皆を平等に造った」という信念を強固なものにした。これが、アメリカの個人主義、平等主義、民主主義である。