約40年ぶりのインフレ上昇率… 給料上がらない日本のリアルな「現在地」
【舛添要一『国際政治の表と裏』】インフレとデフレ、そして円安…日銀の金融政策はどのような意味を持つのか? 実は日本の生産性に問題が。
■賃金が物価以上に上がるのが理想だ
本来であれば、日銀の金融緩和策によって企業の経済活動が活性化し、従業員の賃金も上がる。そして、月給が増えたサラリーマンは消費を増やし、その結果物価も上がる。こういう循環が望ましいということで、私は物価目標を2%に設置するというインフレターゲット論を主張したのである。日銀は、これに賛成したが、まだ2%の目標を達していない。要するに、物価は1〜2%上がり、賃金がそれ以上に上がるというのが理想なのである。
その理想に到達できないので、日銀は、1月18日の金融決定会合で金融緩和政策を続けることを決めたのである。欧米先進国は、10%に及ぶインフレに対応するために、公定歩合、つまり金利を上げて金融引き締め策を講じている。金利が高い。ところが、真逆の緩和策をとる日本は、会社や個人が安い利息でおカネを借りることができるように、金利を低く抑えている。
この内外の金利差が円安を生んでいる。利息が高いドルを買い、利息がゼロに近い円は売られる。だから円安になるのである。
■円安の背景には、日本の生産性低下がある
このように、円安は、内外の中央銀行の金融政策が違うことからもたらされているが、実はもっと根本的な問題は、日本の生産性が低いことである。この25年間、日本の企業の生産性が上がっていないのである。
スイスのビジネススクールIMD(国際経営開発研究所)の「2022年世界競争力ランキング」によると、日本は前年から順位を3つ下げ、34位と過去最低になった。10位までの順位は、(1)デンマーク、(2)スイス、(3)シンガポール、(4)スウェーデン、(5)香港、(6)オランダ、(7)台湾、(8)フィンランド、(9)ノルウェー、(10)アメリカである。中国は17位、韓国は27位である。中国や韓国にも大きく引き離された日本の凋落ぶりを再認識させられる。
国力のある国の通貨は買われて高くなり、国力の劣る国の通貨は売られて安くなる。日本が生産性を上げて国力を回復しないと、円安は続いていくことなる。
■執筆者プロフィール
Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。
今週は、「日本の物価高と賃金」をテーマにお届けしました。
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(文/舛添要一)