「入社したら3年は働け」説は本当? リクルートに聞いた最新の”転職状況”
「会社辞めたい」と思っても「入社3年説」にとらわれがち。だが、経験年数は重視されていなくて…。
石の上にも三年──。辛いことでも我慢強く辛抱すれば、必ず成功するということわざだ。
社会人になると同じニュアンスで、「入社したら最低3年は働け」と言われることが多い。その理由を尋ねると、「3年以内で辞めたら転職するときに不利になる」ため。
「入社3年説」は本当なのか。リクルートに取材してみると…。
■1度は耳にする言葉
「今すぐ会社辞めたい」「もう会社行きたくない」──。GW(ゴールデンウイーク)が終わって2週間経ち、ネット上ではこういったワードがあふれている。
社会人になって、さまざまな理由から「会社を辞めたい」と考えた人は少なくないだろう。しかし、会社の上司や先輩、家族に相談すると「最低でも3年は働かないと…」と言われた人も多いのではないだろうか。
以前は、大学を卒業して会社に入ったら定年まで働くことが当たり前だったが、働き方が多様化しているいま、この説は当てはまるのだろうか?
■20代前半の転職者数は…
株式会社リクルート HR統括編集長の藤井薫さんは、終身雇用を前提にした考えは社会的に弱くなりつつあると指摘する。
「サービス経済化というように、社会全体が製造業を主体とした時代から第三次産業と呼ばれるサービス業中心になっています。その結果、消費者の熱しやすく冷めやすい傾向に取り込まれ、企業は差別化が難しくなり、短命になっています。一方、個人としては『元気なうちは働きたい』と職業寿命は長くなります。そうなると、会社の中で自分の才能を発揮できないのであれば、才能を発揮できる場に移ろうとします」 (藤井さん)。
リクルートエージェントの転職決定者数のデータを見ると、全体的に転職する人は伸びているが、特に24歳までに転職した人の率が伸びていることがわかる。もともとこの年代が少なかったこともあり、実数でいえば30半ばの転職者が多いそうだが、入社して3年未満で転職する人は着実に増えているのだ。
前出の藤井さんは、20代の傾向をこう分析する。
「会社と人生を共にするのではなく、自分の成長と人生を共にするという感覚を持っています。また、社会的意義のある仕事に就きたがる人が多いのも特徴です。『デジタルマーケティングをやりたい』『将来はベンチャー企業で働きたいから経営層に関わる部署につきたい』といった目標を持って大手の会社に入社しても、『まずは営業の現場を経験しろ』と言われてしまう。そうなると、長期的に働くことよりも、自分のやりたいことができて、やりがいのある仕事を求める人が多いんです」(前出・藤井さん)。
■「異業種に転職する人が多い」
ここ数年、転職する人には「特徴」があるという。「異業種に転職する人が増えています。『転職は即戦力だから同職種でないと決まらない』と思っている人もいるかもしれませんが、いま同職種に転職する人は5人に1人の19.6%しかいません。もちろん、会計士など専門性が高く、その分野でないと難しい仕事もあります」(前出・藤井さん)。
企業側からしても、同じ業界よりも違う業界の人を求める傾向があるということだ。その背景には、人材不足があるという。「企業側のデータとしては、景気が悪いのに人が足りない状況です。チャンスはあるのに、人がいないために事業拡大できないんです。今までのビジネスだけやっていても厳しくなるので、デパートがインスタグラムで商品を販売するなど新しい事業をします。そうなると、インスタグラムに精通している20代の人が欲しいと考える。新しい事業を始めるとなると、違った業界にいた人のほうが適しているんです」(前出・藤井さん)。
企業側は前職での経験年数はそこまで重要視しなくなっている。「旅行代理店で働いていた方がコロナ禍で業績が厳しくなり、エンジニアに転職して成功したケースがあります。そのかたは、旅行会社でコミュニケーション能力や折衝力があり、高い学習意欲があってもともとプログラミングの勉強をしていました。企業側はそうした成長志向が強く、コミュニケーション能力がある人を求めます。専門知識はなくても、自ら課題を設定するポータブルスキルを求めるんです」(前出・藤井さん)。
入社1年目、2年目であっても、十分チャンスはあるということだ。
■パワハラから1年で退職
ただ、転職を考える人は、スキルアップが目的のケースばかりではない。パワハラや長時間労働などで、肉体的にも精神的にも苦痛をきたし、働き続けることが難しくなってしまうケースもある。
新卒でマスコミ関係の会社に入社したものの、1年で退社したAさんもその1人だ。「大学のころからマスコミ業界で働きたいと思って入社しました。しかし、勤務時間が長く、休みの日も上司から仕事の電話がかかってきて、無理やり朝まで飲み会に付き合わされて、精神的に限界になって辞めようと思いました。1年で退職するのは不安でしたが、なぜ前の会社が合わなかったのか、前職で培った経験をどう生かすかを自分なりに分析して、メーカーの営業職に転職できました。周りの人からは『3年は働かないと…』と言われましたが、我慢して辛い仕事をするよりは、転職も1つの選択に入れてもいいのではないでしょうか」(Aさん)。
もちろん、同じ会社でコツコツと経験を積んだり、いまの仕事にやりがいを見出せなくても別の部署で自分の能力を発揮できるケースもあるため、転職だけがすべてではない。だが、「入社3年」という考えに固執せず、転職を1つの選択肢に入れることで、新たな世界が見えてくるかもしれない。
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(取材・文/Sirabee 編集部・斎藤聡人)