脂質異常症のスタチン剤で認知症発症を加速か 米UCLA研究チームが発表
軽度認知症に脂質異常症。日常生活のなかで、どちらも医学の話題として頻繁に出てくる、いわば現代病だ。
血液検査でコレステロールや中性脂肪の値が高いことがわかり、「脂質異常症(かつては高脂血症)」と診断され、スタチンという薬が処方されている人は大変多い。
しかし、ある種のスタチン剤と認知症発症に、関連性があることが見えてきたという。『Mirror』や『US NEWS』などが報じ、波紋を広げている。
■最もひんぱんに処方される薬
加齢や食生活の変化で血液中の悪玉コレステロール(LDL)や中性脂肪(TG)が増えると、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが高くなる。脂質異常症の診断とともに、そのリスクを減らす目的で定評のあるスタチン剤が処方される人は、世界的にも非常に多い。
ところがこのほど、そのスタチン剤の「脂溶性」のものに関し、認知症の発症に影響を及ぼず可能性があるという内容の論文が発表された。
■PETで脳循環代謝を検査
論文は、アメリカ・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で分子薬理学を専門とする、プラサンナ・パドマナバム博士率いる研究チームによるもので、『核医学ジャーナル (The Journal of Nuclear Medicine)』に発表された。
認知機能が正常あるいは軽度認知症でスタチンを飲んでいない人、認知機能が正常でスタチンを飲んでいる人、軽度認知障害でスタチンを飲んでいる人をグループ分けし、アルツハイマー型認知症にかかわる脳の部分について、PET(Positron Emission Tomography=陽電子放出断層撮影)で循環代謝の検査を実施。
そこに8年分の臨床データが重ねられた。スタチン剤が「水溶性」と「脂溶性」の2種類あることも注目されたという。
■8年後に大きな差
その結果、軽度認知症と診断された対象者303人のうち、脂質異常症のため「脂溶性」スタチン剤を服用し続けていたグループで、8年以内に本格的な認知症に移行した人の数は、「水溶性」スタチン剤を服用しているグループ、あるいはまったく服用していないグループより、2倍かそれ以上多いことが判明した。
ただし調査対象者数が少ないため、今後さらに大規模な調査が必要という。
日本において処方されている脂溶性のスタチンは、成分名ではシンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ビタバスタチン。そして水溶性のスタチンは、成分名ではプラバスタチン、ロスバスタチンがあるという。
■現代病の軽度認知症と脂質異常症
軽度認知症は、日常生活に問題が生じる本格的な認知症ではないものの、認知機能の衰えに本人あるいは家族が気づき、危機感を感じているといった状態のこと。高齢社会の日本で、その人口は増す一方だ。
そして食生活の欧米化もあり、日本でも大変多くの成人が脂質異常症でスタチン剤を処方されるようになった。種類にもよるが、その薬が本当に認知症の発症を早めるとなれば、現代医学における非常に悩ましいジレンマとなるだろう。さらなる調査にも注目が集まりそうだ。
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(文/しらべぇ編集部・浅野 ナオミ)