ワクチン過信で五輪開催は危険 国民約半数が2回接種のイギリスに変異株が流行中
新型コロナウイルスワクチンの効果は絶対ではないなか、夏の五輪はボディコンタクトのある競技も多いことが問題だ。
「新型コロナウイルスワクチンのおかげで、五輪の開催が安全安心なものになる」と自信たっぷりに繰り返す菅義偉首相。国民の接種はスピードアップしているが、あまりにワクチンを過信するのはいかがなものか。
イギリスの今の状況が、そのまま五輪開催時の日本に当てはまるとしたら、とんだ痛い目にあう可能性がありそうだ。
■イギリスでまた感染者が急増
『NIKKEI ASIA:Charting coronavirus vaccinations around the world』は、新型コロナウイルスワクチンの2回の接種を終えた国民の割合について、11日現在、世界のトップはイスラエル(56.7%)、2位はチリ(45.7%)、3位はアメリカ合衆国(42.9%)、4位はイギリス(42.7%)だと示している。
その第4位のイギリスが今、デルタ株(インド型変異株B.1.617.2)の感染拡大により、再び1日あたりの新規感染者が7,500名を超えているという。
米『ブルームバーグ』によれば、デルタ株は感染力ばかりか重症化して入院する割合が高く、難聴、重い胃腸症状、血栓、組織の壊疽(えそ)による指や足の切断などの深刻な症例が多々報告され、『BBC』は21日に予定されているロックダウン緩和も遅れる可能性が大だと伝えている。
■ワクチンで100%予防は無理
イギリスは成人の多くがワクチン接種を2回済ませ、ワクチンパスポートを手に入れ、外食も旅行も怖いものなしと活発な行動が始まった途端に、変異株の流行拡大に見舞われた。ワクチン未接種者ばかりか、接種者もちろんいる。ワクチンの予防効果は絶対ではないからだ。
世界的に見た接種回数では、トップのファイザーに迫るシェアを誇るアストラゼネカのワクチンだが、その効き目は76%であり、ファイザーやモデルナより20%近く劣る。イギリスでは、本拠地だけにアストラゼネカのワクチンが、ファイザーとほぼ等しく国民に接種されてきたという。
■期待外れのシノファーム
効き目が劣るといえば、中国の国営シノファーム製ワクチンも「効果は期待外れの低さだった」と話題になっている。これにより、中国ではファイザーのワクチンでブースターショット(追加接種)を受ける人が続出しているそうだ。
2016年のリオ五輪に、選手団だけでも413名が参加していた中国。アメリカ、オーストラリアに次ぐ相変わらずの大所帯だ。東京五輪に来日する選手団や関係者は今、あわててブースターショットを受けているだろうが、変異株への効果について疑問視する向きもあるようだ。
■ワクチン過信は禁物
こうしたことから、東京五輪に向け選手団の8割が接種を済ませるという見通しに、海外で「それなら安心だ」と評価するメディアは見当たらない。
ワクチンの効果は絶対ではないうえ、種類も国によってまちまちで、強い効果を得られるファイザーやモデルナだけではないというのに、「たった8割なのか」と絶望感を添える記事も目立つ。
さらに、18歳未満の選手や家族のほとんどが接種を受けないだろうと考えられている。彼らが無症状感染者となり、母国にデルタ株を持ち帰ることを案じるメディアも多いようだ。
冬の五輪に比べ、「密」どころかボディコンタクトのある競技が多い夏の五輪。なぜ「安全安心」だと強調できるのだろうか。
・合わせて読みたい→疑問だらけの米国五輪選手団来日 渡航禁止令の弱体化や旅行保険への影響も懸念
(文/しらべぇ編集部・浅野 ナオミ)