「都合の良い時に助け合う」格闘家・青木真也がとる人間関係が超合理的だった
総合格闘家の青木真也が、『距離思考 曖昧な関係で生きる方法』(徳間書店)を執筆し、熱い思いを語った。
2020/08/03 09:00
「一定の距離を保ちながらも、お互いに助け合うのが『ファミリー』。俺たちはファミリーだ!」
総合格闘家の青木真也が執筆した『距離思考 曖昧な関係で生きる方法』(徳間書店)が、1日に発売された。「お互い、都合のいい時に付き合えばいい」とも定義される、『ファミリー』と称する独自の人間関係論を抱く青木が、現代社会における生き方の「すゝめ」を提案した一冊だ。
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■自由に解釈できる関係
二つの家庭を持つ友人の話を聞いたことが、曖昧な関係性「ファミリー」論着想のきっかけだった。その友人には、各家庭にそれぞれ妻と子供がおり、一方とは婚姻関係を結び、もう一方とは結んでいない。婚姻関係を持たない方の妻が、自らを「ファミリー」と説明していたと、青木は聞かされた。
結婚とは違い、法律上の制約がないファミリー。「お互いに助け合う」ことを指すなら、異性、同性関係のない「友人」とも解釈できるし、上記知人の例にあるファミリー関係なら「浮気、不倫」とも読めるが、どう違うのだろうか。
「『ファミリー』に明確な線引きはないよ。友達に、『俺たち友達だよな』という確認もしないでしょ?
不倫や浮気も、他者が決めつけて否定するもの。当事者間での合意があるなら、家庭が二つあってもいいと思う。他者が他人に考えを押し付けるのはよくないよ」
■ファミリーに助けられてきた
青木は、「近い距離感だと、ファミリーは3、4人くらいいる」と話す。自身はこれまで、彼らに「無限大に助けてもらってきた」と振り返る。
「試合に出たくなかった時も、ファミリーからの応援の声を耳にして、『そこまで言うなら頑張ろう』かと。助けられてばっかりだったな」
ファミリーへの感謝の言葉を口にしつつも、「付き合いたくなかったら付き合わなくていいんだよ。揉めそうなら離れればいい」と、あくまで一定の距離のもとで人間関係が構築されていくという。
■妻や義母との関係が悪化
私生活で人間関係に苦しんだことも、ファミリーに心を委ねたきっかけだった。
2010年に結婚するも、生活する中で「成長スピード、向かう方向の違い」から妻と揉め事が多発し、時には自宅の窓から私物を投げ捨てられるほど夫婦仲は悪化。現在、妻や子供とは別居生活を送っており、たまに連絡しても、返信は届かない。
「お互い、『総合格闘家』『主婦』と、異なる競技をしているから、ルールも違う。距離が出てきて、うまくいかなくなった。他人の価値観を学んだり、もっとコミュニケーションを取っておけばよかったのかもしれない」
家庭について「聖人君子として真面目にやってほしい」と考える義母とも、「オレは『面白い』と思うモノを作りたいタイプ。絶対合わないなと思っていた」と振り返るように、考えに隔たりがあった。
■これから結婚するカップルへの助言
いささかの後悔を口にしつつも、「ただ、一回こじれたらもうダメだと思う。直らないものは直らないんだから。さっさと諦めるほうが良い」と、スパッと切る勇気が必要だとも述べる。
これから新しく結婚生活を迎えようとするカップルに対し「お互い依存しないことが大事。自分の足で立って家庭が成り立つ方がいいと思う」と助言を送るが、結婚生活にも「ファミリー」の考えを応用できるという。
「婚姻という関係はさておき、結婚しなくてもいいと思う。同居する必要もなくて、お互い気の合った時にほどよく付き合い、一定の距離を保った方がいいのでは。仲良くすることよりも、こじれてしまうことの方が多いんだから、互いの距離を詰め過ぎない方がいい」
■試合前に抱く恐怖
人間関係に物怖じしない青木でも、試合前になると「メンツがつぶれる」「物理的に傷つけられる」「実力が出せなかったら」といった3つの恐怖と戦っている。
「人が怖いと思うのは、過去の経験と未来がどう繋がるかわからないから。でも、過去の経験があるから、今に集中できる」
そんな時でも、「モチベーション? 上げたことないよ。そもそも、やりたくてやっているわけだから、仕事している時点でモチベーションはある。あとは、『アァーッ!』と騒いだり、物理的にスイッチをいかに入れることが大事だ」と心を燃やす。
■若い世代への接し方
早稲田大学在学中に獲得した「修斗」ミドル級世界王者を皮切りに、10年以上にわたり総合格闘家の王者として君臨してきた青木。後輩指導で注意していることは、「若い人がやっていることは正しいと思うから、それを否定しない」と、慢心することなく、吸収しようとする姿勢を持ち続けている。
若い世代は、ベテランの自分よりも活発に身体を動かすことができる。若くても、「優秀な人は年齢関係ない」という考えもあり、「すごいモノはすごいと素直に評価したい」と話す。
■ミニマリストで「トロフィーはPDFがいい」
「ベルトやトロフィーの画像をPDFにして渡してくれるだけでいいのに」と考えるほど、昔から、モノへの執着心がないという青木。「持ってるTシャツは6枚だけ」だといい、全ての衣類は収納ケースに収まるほどしか持っていない。
現在一人で暮らす、8畳ほどの広さの部屋には、必要最低限のモノしか置かず、テレビはない。「スペース余っちゃってて、4~5畳でも全然いけそう」と生活空間を明かす。
年収も「300~400万あれば本当に(ほかに)いらない」と質素な生活を送る青木は、他人のためにカネを使うとか。
「展示会に呼ばれても、自分は要らないから、誰か知り合いを連れて行って、『そういやお前誕生日だったな、買ってやるよ』といったように、人に使うことが多い。そうすれば、(恩などが)返ってくることもある」
■コロナ社会で生きるには…
新型コロナウイルス感染拡大で、変動が起きている世の中。出社せずに、テレワークを導入する企業や、会議もオンライン上で行うなど、人と人が対面する機会が失われつつある状況の中、取材対応などで自身もテレワークを活用した青木は価値観の変化を実感した。
「会って行うコミュニケーションの価値が上がっているよね。リモートは楽なこともあるけど、『言ってナンボ』の時もあるから、大事なことは対面して話したいな」
■マスク着用の風潮は「ヴィーガン」?
外出自粛が世間に求められていた頃でも、青木はコロナ前と変わらない日々を過ごし、今でもマスクを着けずに生活している。
「みんな、マスクとしての役割というより、同調圧力から『マスクをしている』ポーズの為に着用しているのでは。ジムや公園でマスクしながら運動、ランニングしているやつ見ると、バカだなぁと思う。熱中症で死なないとわからないのかな…。『ヴィーガン』というか信仰に近いよね」
人間関係やコロナ社会において、一般的に人々が抱く考え方と、全く異なる世界観で青木は我が道を歩む。
【青木真也(あおき・しんや)】
1983年5月9日生まれ 静岡県出身。小学3年時に柔道を始め、2002年に全日本ジュニア強化選手に選抜。早稲田大学在学中、柔道から総合格闘技に転身を遂げる。06年2月、「修斗」ミドル級世界王者を獲得。大学卒業後、静岡県警に就職するも2ヶ月で退職し、総合格闘家の道で生き始める。
■過去の王者記録
08年:「WAMMA」世界ライト級王者
09年:「DREAM」ライト級王者
13年:「ONE FC」世界ライト級王者
18年:「DDT EXTREME」級王者、アイアンマンヘビーメタル級王座
著書に『空気を読んではいけない』(幻冬舎)、『ストロング本能 人生を後悔しない自分だけのものさし』(KADOKAWA)など。
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(取材・文/しらべぇ編集部・Sirabee編集部)