チェルノブイリ界隈の水と穀物から新ウォッカ誕生 地元復興に一役買うか
福島第一原子力発電所事故を経験している日本だけに、チェルノブイリの復興の努力は他人事ではない。
1986年にウクライナ・キエフ州で起きた「チェルノブイリ原子力発電所事故」。ここには人々が住めなくなり、荒れ地と化すと同時に野生生物が棲みついてしまったが、その周辺の立ち入り禁止区域を長く研究してきた科学者チームから、このほど興味深い発表があった。
■『アトミック(ATOMIK)』と命名
極めて深刻なレベルの、あの忌まわしい原発事故から33年。しかしチェルノブイリも周辺地域から徐々に変わろうとしている。この土地の復興を祈願し、そこで収穫された穀物と水から新ブランドの「ウォッカ」を醸造することに成功したというのだ。
美しい木箱の緩衝材の上に寝かせられた、ガラスボトル入りのそのウォッカ。ボトルに貼られたラベルには『ATOMIK(アトミック)』の文字と、その土地で大量繁殖が続いているイノシシの絵が描かれている。
ずいぶん自虐的な印象があるが、しっかりと議論を重ねた結果のネーミングとラベルだという。
■原発事故由来の放射性物質は
誰もが気にするのは、健康への被害が問題となる原発事故由来の放射性物質が、そのウォッカにどの程度含まれているかということだ。
優れた蒸留プロセスにより不純物を限りなく除去したといい、その後に英サウサンプトン大学で行われた成分分析では、心配される放射性物質のすべてにおいて基準値を下回り、ただし放射性炭素14のみが検出された。
これについて英ポーツマス大学のジム・スミス教授は、「炭素14のその値は、アルコールを含むほかの飲料全体においても確認されている」と説明している。
■収益のほとんどが町の復興に
あの原子力発電所の爆発事故により、4,000平方キロメートル以上の範囲が「立ち入り禁止区域」となっていたチェルノブイリとその周辺。だが年月の経過とともに空間線量率が下がった土地には、人々が少しずつ戻ってきている。
30年以上が過ぎた今では役所や教育施設が機能している町もあり、幼稚園まであるというのは「幼い子供でも安心して育てられる」と確信する若い世代が増えてきているからなのだろう。
長年にわたり現地の取材にあたってきた英『BBC』の記者は今年の春、「チェルノブイリ原発内部の空間線量量は毎時13.5マイクロシーベルトだが、人々が戻ってきた地域での計測結果は、すでに毎時0.6マイクロシーベルトまで落ちている」と説明していた。
この値は、高度4万フィート(約1万2,000メートル)を飛ぶ旅客機内で計測した空間線量量の、じつに3分の1の値でしかない。
■年末までに500本販売が目標
こうしたことを受け、国やキエフ州政府も「アトミック」ウォッカの販売体制をサポートすると発表。価格は未定だが、2019年末までに主に観光客を対象に500本を生産販売する予定だ。
チェルノブイリ周辺一帯の復興と、若い世代により生まれ変わろうとしているそうした町の発展を祈願し、このウォッカの収益はほとんどが各所に寄付されることになるという。
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(文/しらべぇ編集部・浅野 ナオミ)