北越の小京都で生まれた一見意味不明のアルファベットライン マスカガミに聞く誕生秘話
『F40』『J55』といった変わった名前の日本酒をご存知だろうか?
■『アルファベットライン』がヒット
また、甕に詰めた本醸造酒『甕覗(かめのぞき)』は、4代目の遊び心から商品化され、発売以来ロングヒットとなっている。
しかしここ数年、注目されているのは新シリーズのアルファベットラインだ。発売すると次々にすぐに完売してしまうという。
「ロットが小さいこともありますが、酒らしからぬ名前とラベルデザインがよかったのではないか」と蔵元は分析する。
『F40』とか『J55』といったアルファベットと数字の組み合わせは、一見意味不明。だが、わかってしまうととてもわかりやすいネーミングなのだ。
「Fは普通酒のF、Jは純米のJなんですよ。次に並ぶ数字は精米歩合。40は40%に、55は55%にコメを磨いているということ。単純でしょ。
車やバイクの型番は、それを見たら排気量がわかるじゃないですか。大吟醸だの特別本醸造だの、理解しにくい表現じゃなくて商品内容をストレートに表したネーミングなんです」
■サクセスストーリーは災いから始まった
『F40』から始まったアルファベットラインは、『F50』『J50G』『J55Yamahai』『J55Sokujo』『F60』と続き、「S30」を2017年末に発売した。
名前から察っせられる通り精米歩合30%ということで大吟醸、磨きに磨いた大吟醸ということになる。それゆえ、「S」はシュプリーム=至高のS、これ以上はない「至高」な1本だ。
開発は次々にヒットを飛ばし、サクセスストーリーを展開中だが、その発端は思わぬアクシデントだった。
「越淡麗を近隣の農家に契約栽培してもらっているのですが、その1軒が乾燥機のダイヤル操作ミスで、水分過多のコメにしてしまったんです。大吟醸に使おうと思っていたのですが、このコメが検査で等級外になってしまいました。
契約栽培は全量買い取りが原則ですが、こうしたアクシデントの場合は買う義務はないのです。 とはいえ、長いお付き合い。心情的にはなんとかしてやりたい。
等級外米は使っても普通酒しか名乗れませんが、金額的に折り合いがついたので引き取りました」
と、蔵元は2014年を振り返った。 ここからが普通酒にこだわってきた中野さんの真骨頂。この越淡麗を40%に磨いて普通酒にしたのだ。
水分過多はコメを磨く時に割れにくいので、このアクシデントはいわば条件のいい規格外。災いを福に転じてしまったわけだ。