地元上越で絶大な人気を誇る『能鷹』 酒飲みに愛される秘密を田中酒造に探る
創業370年を超え、辛口の日本酒にこだわる直江津の酒蔵。
■酒の命・仕込み水は横井戸に湧く天然水
米については、麹はすべて「五百万石」、吟醸酒は全量に契約栽培の「越淡麗」を使っているという。
「前杜氏から引き継いだときから、越淡麗で金賞をという県の方針でした。まだ使い慣れていないせいもあるでしょうが、この米は山田錦より扱いが難しい。
秋にうまみが乗ってくるタイプで、新酒のときには酒が若いので、新酒鑑評会の時期への出品は これからの課題です」
仕込み水には裏山の横井戸から取水する天然水を使用。柔らかい水質で濾過して使っているという。
「もちろん、毎年、検査に出しています。もともとは竪井戸を掘って水を汲んでいたのですが、横井戸の水を使ったら関東信越局の品評会で3位に入賞、翌年の第49回では首位になりました。以来、横井戸の水を使用しています。
毎年、シーズン前には全員で横井戸を清掃、点検します。ロウソク灯して、這いつくばって狭い暗い洞窟をきれいにするんですから、閉所恐怖症だと耐えられません」
酒の味は水で決まる。うちの酒の味を作るのだから、と誰もが苦労を厭わないそうだ。
■新時代の感性も投入して
馬場さんは製造部長の任にあるが、入社時は営業に配属されていた。その当時から違和感を抱いていたのが、パッケージの不統一だという。ラベルは商品毎に書体が異なり、サイズによって瓶の色も違っていた。
「ラベルの書体を統一しました。女性の書家に依頼して新しい文字を書いてもらい、色は酒種で分けるようにしました。まずは純米酒から、続いて純米大吟醸と吟醸を発売。お陰さまで好評をいただいています」
ただし『普通酒』と『黒松』だけは変えない予定という。長らくの愛好者が多く、毎年お酒の味にも敏感で、少しでも違和感を抱くと製造部長に直接問い合わせが来るのだとか。
普通酒の製造割合が70%、地元への出荷率が75%と、地元酒通の支持が圧倒的多数の蔵を物語るエピソードだ。