身の丈にあった造りで醸された『天神囃子』 新潟・魚沼から未来へ繋がる酒蔵の姿
新潟・妻有で地元の米にこだわる魚沼酒造を取材。
■交渉で酒米農家を増やす
蔵のある地元は、米の名産地ゆえに高収入が得られるコシヒカリを作る農家がほとんど。その農家と何度も話し合って酒米を作ってくれる人を増やしたそうだ。
「酒米を作る農家がまだまだ少ない。だからといってひとつの地域だけに固執すると、万が一その地域の米の出来が悪いとその年の酒造りができない。だから酒米は分散して調達しなくては。酒造りにおいては原料が何よりも一番大切」
酒造りに適した軟らかな水と良質な酒米。これらが揃ってうまい酒ができないはずがないという山口社長。
ここ数年、独自の酵母を開発する酒蔵が増える中、弟の山口為由杜氏は一貫して「新潟酵母」を使用する姿勢を崩さないのもこちらの特徴だ。
「家族経営の小さな酒蔵はとにかく何もかも規模が小さい。昔から新潟県産の米と酵母、そして地元の水で造り続けるしかありません。このオール新潟の日本酒こそ魚沼酒造の味です。
今風に飲みやすいように改良する点もありますが、基本は変えない。これしかない」
■県外には1割しか出回らない逸品も
地域に根ざした酒蔵。その気持ちは代表銘柄『天神囃子』にも見られる。天神囃子とは妻有地方でずっと唄い継がれている祝い唄であり、元々は稲作豊穣を祈願する神事唄であった。
「元々違う銘柄だったのですが、1980年ごろ身近に縁起のよい名前があることに気づき変えた。おかげで祝席や吉事の際に地元の人が多く求めてくれるようになりました」
と、山口社長。『天神囃子』はめでたい席には欠かせない祝い酒として地域に根付き、そのため県外に出回るのは全出荷量のわずか1割程度とか。新潟市ですらなかなか見つけられない隠れた銘酒だ。
過去には全国酒類コンクールで、特別本醸造酒が本醸造酒部門で1位を受賞するほど高く評価された逸品である。