水に恵まれた地であえて水と米にこだわる 『菅名岳』八代目蔵元の挑戦
新潟県五泉市にある近藤酒造は、水と自社での酒米づくりにこだわる蔵元だ。
■水に恵まれた五泉市で
「その水の恵みを、ここに生まれた子供たちにも知っておいてほしい」と、近藤酒造の近藤伸一社長は語る。今は当たり前と思っているけれど、決して誰もが与えられるものでない、恵まれたことなのだと。
「その水で酒を醸している。大人になったらこの酒を飲みなさい。鮭が生れ育った川へ帰ってくるように、地の酒を求めて帰ってきてくれるように、今から教えておかないとね」
真面目な顔で話していたかと思うと、見事にすり替えて笑いを取ってしまった。
■目の前の水も良質で豊富だが
街中といえども五泉市では、敷地内にある井戸水も、酒造りには最適の水。
ところが、水にこだわるあまり、寒の入りから9日目、1月13〜14日頃という、そろそろ吟醸造りも始まろうという極寒の季節に、雪深い山奥へわざわざ水を汲みに行く。
「この日に汲んだ水は体に良いとされますから。以前、街中のここから山の近くへ蔵を移転して酒造りがしたいと思ったことがありまして。
結局、実現はしなかったのですが、やはり、山の水への興味は捨てきれず、3〜4箇所の清水から水を採取し、試験場で検査してもらったんです。
そうしたら、どれも合格。どれも美味しい酒ができるという結果。どれに決めようかとなった時、迷いませんでしたね、そりゃ、一番奥の取りにくいところにある水でしょう」
それが菅名岳にある『どっぱら清水』。この水で仕込んだ酒が美味しかったのだそうだ。
寒九の水取りは、1992年からスタートし、26回を数える。一度も休まなかったばかりか、2011年の新潟・福島豪雨の際にも社員他数人で汲みに行ったというツワモノ揃い。
「そりゃそうですよ。寒九の日は、1年に1度しかありませんから」と、当然のことのように答えが返ってきた。山行きには、毎回、山岳会の有志も同行している。