淡麗旨口の酒は地元の人たちの口に合わせて  手間暇を惜しまない『雪中梅』の酒づくり

日本酒好きなら知っているであろう、上越市の丸山酒造場が醸す『雪中梅』。地元密着の酒づくりとは。

雪中梅

『雪中梅 普通酒』を現在の酒質に定めたのは、酒蔵4代目の三郎治。地元・上越市に密着した地酒であることを念頭に、飲み方と酒肴を選ばない、日々の暮らしを支える酒を良しとした。 


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■普通酒なのに蒸米は和釜に甑、そして手掘り作業

雪中梅

丸山酒造場の代表取締役は丸山三左衛門さん。古風な名前なのは、家系に伝わる名前のひとつを襲名しているため。創業1897年、7代目当主として120年の歴史を背負っている。

蔵に戻ったのは2008年。「三人兄弟の長男でしたし、父の早世もあって、若い時分から跡を継ぐ可能性は考えていました。弟2人が別の道へ進んだので、結果として、私が残ったという印象ではありますが」と語る。

2015年、代表に就任。それまでは造りにも携わったが、主には蔵元を務めていた母の補佐役だったという。 そんな経緯もあってか、とても気遣いがとても行き届いている。

取材当日も、「茜蔵でちょうど蒸米が上がる時間です」と、社長自身が玄関先で待ち構えていて、本蔵と少し離れた茜蔵に案内してくれた。仕込み風景を見られるように、という配慮だったに違いない。

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■手間暇を惜しまない酒づくり

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30年ほど前に建てられた茜蔵では、製造量の75%を占める普通酒を醸す。敷地内に、自動化ラインを導入した瓶詰め工場、こだわりの米を保管する米倉庫も点在する。ちょうど蒸し上がった米が、大きな甑から手掘りされていた。

立ち上る湯気の中で、蔵人たちは慣れた手つきで米をさらい、放冷機へと移す。労働力軽減の名の下に「もっこ」が多くの蔵で使われるようになった今、手掘り作業の光景はそうそう見られるものではない。

忘れそうになるが、ここで造られているのは、普通酒。「丁寧に醸す、手間と暇を惜しまぬこと、誠実な仕事をする」というモットーが、早くも垣間見えた。


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■当り前に伝わる「蓋麹」「箱麹」の製法

雪中梅

しかも、今も手間がかかる「蓋麹法」「箱麹法」による麹造り。これらの技法が当り前に伝承されているのは、この蔵の前身が麹屋だったことに由来するのだろうか。

放冷機から出てきた蒸米は布にくるんでリフトに乗せ、2階の麹室に引き込まれる。このリフトは30年も前に導入されたというのに、麹は江戸期の麹屋時代同様、昔ながらの手造りだ。

譲れることと譲れぬことが明確なのも、心揺さぶられた事実だった。


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■2合も飲めば満足できるような酒を目指して

雪中梅

主要銘柄『雪中梅』は、昭和初期に生まれた。「春の兆しを感じさせるいい名前だと思います」と蔵元。寒さに負けないしなやかな生命力、寒造りによる酒造り、未来への希望などをイメージさせてもくれる。

4代目の三郎治は、地元の人たちのために、「農業で疲れた体を癒すには甘口がいい。だけど、翌日の仕事に響くから、飲み過ぎてはいけない。懐が痛んでもいけない。それには、2合も飲めば満足できるような酒」と、『雪中梅』を淡麗旨口の普通酒とした。

「基本晩酌酒なので、合わないものを探すほうが難しいです。野沢菜の漬け物、その古漬けを使った粕汁などが定番。


このあたりの地のものでは、たらこの糀漬けや白身魚メギスのフライなどもいいですよ。晩酌には贅沢かもしれませんが、タイの薄作りなんかともイケます」


甘口だけどキレがあるので重くない。焼き鳥や串カツの油も流してくれる。なんとも懐深い姿が見えてきた。


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■自社裏山が水源のきめ細かく柔らかな水

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頸城杜氏の流れをくんでいるという杜氏は、50代の働き盛りだ。蔵人たちが、最終的にはオールマイティーに造りをこなせるように、仕事の持ち場はおよそ5年で移動するローテーション制。

作業経験の蓄積で、担当部署間の連携が良くなるという。通年雇用の蔵人たちは、夏の間は蔵のメンテナンスや山の整備に携わる。 

『雪中梅』の酒質に関与するきめ細かく柔らかい水は、東頸城丘陵の西端に位置する里山が水源。この水を守るには山の手入れが不可欠で、蔵人たちは夏場、下草刈りや間伐にも勤しむ。

間伐材を用いて酒造り道具や蔵の備品を造ったりもしている。「物作りが好きで得意な人たちが多いんですよ」と蔵元は笑みを漏らした。

最後に蔵の設備について尋ねると、特筆すべきは独自開発した洗米吸水装置とのこと。酒米は米質に応じて吸水率や浸漬時間が変わるが、分析データの蓄積により再現性を高める他、産地や年ごとに違う米質にいち早く対応するための仕掛けである。


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■通年商品の他に4種類の季節限定商品

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丸山社長 :『雪中梅』の通年商品は普通酒と本醸造と純米酒の3種類。ほかに夏季限定の特別純米酒、そして冬季限定の特別本醸造と大吟醸の3種類を季節限定商品として発売しています。


その季節ならではの旬の味わいを楽しんでいただきたいと思います。また、一部地域限定商品が発売されていることもあります。


以下は、『雪中梅』ラインナップの中から、蔵元お薦めの3本だ。


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①『雪中梅』純米酒

雪中梅

春秋に発売される季節限定商品。酒米・五百万石を原料に醸し、酸による軽みが持ち味。冷酒でも飛び切り燗でもイケる。合わせる肴はオイスターがお薦め。生でもフライでもいい。


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②『雪中梅』普通酒

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晩酌酒として地元で圧倒的人気、丸山酒造場の主力商品となっている。精米歩合68%のこしいぶきを使い、アルコール度は15%台。

柔らかな口当たりと甘みがありながら、キレのよい後口が特徴。煮魚や野沢菜漬けをはじめ、合わせる料理はオールマイティー。


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③『雪中梅』 特別純米酒

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夏季に出荷される季節限定商品。原料米は山田錦と五百万石、精米歩合を55%にして綺麗さを求めた。穏やかな香り、まろやかで綺麗な甘みとバランスがとれた酸が特徴。冷酒がお薦め、枝豆や鮎めし、鯨汁に合わせてみてと蔵元。

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(取材・文/Sirabee編集部

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