「新潟銘酒の父」の教えが流れる糸魚川の酒 蔵人の栽培米だけでつくる6人の蔵とは
国税庁酒類鑑定官として新潟清酒を叱咤激励した田中哲朗氏の教えを今も守る。
■飲めば飲むほど美味くなる酒
現在の主要銘柄「月不見の池」は、先々代の昭和初期に誕生した。酒銘は蔵からほど近い山中にある天然池の名前。
自生の藤の名所として知られ、シーズンになるとあたり一面を藤の花が覆って、池に映る美しい月でさえ見えなくなってしまうとか。
そのため、いつしか「月不見の池(つきみずのいけ)」と呼ばれるようになったという。 このお酒は、仕込み水も米を育てる水も月不見の池の天然水。
それぞれの米の良さ、米本来の味わいを生かし、熟味と熟香を大切に造られる。その味わいは、熟成による変遷が楽しめ、飲むほどに美味しくなる。「最初の一口より二口目、三口目も美味しいお酒がいい」と蔵元は話す。
■スタンダードな酒をどれだけ美味く造れるか
造りのコンセプトは米由来の旨みと香りのバランスが取れた酒、かつキレのある酒。綺麗だけど淡麗ではなく、味わいとコクがあって、さらに熟成で美味しくなる酒質を理想とする。
「先代が量より質とこだわり、普通酒こそいい酒であるべきと主張しました。綺麗な酒質を求めて精米歩合は60%以下と定めましたから、普通酒もこれに習っています」
精米歩合60%以下は吟醸酒並み、これを普通酒価格で販売して採算は取れていたのかと心配になる。さらに先代は純米酒造りにも力を入れた。
純米酒へのシフト志向は1965年からというから、50年以上も前に決断していたことになる。今でこそ当然のように語られる純米酒市場だが、等級分けされていた時代の日本酒業界にあっては、革新的なことだったはず。
猪又酒造には、この一本気が受け継がれている。