米・水・人のハーモニーで醸す地域密着型の酒 新潟・阿賀町の『麒麟山』に聞く
創業170年の老舗ながら、原料米を確保するため、社内に「アグリ事業部」までつくった。
■森が育む清冽な水を使って
仕込み水は、「越後山脈・下越の谷川岳」と呼ばれる御神楽岳(みかぐらだけ)起原の常浪川(とこなみがわ)の伏流水。
ミネラル分の少ない軟水のため、発酵が時間をかけてゆっくりと進み、酒は綺麗ですっきりとした味わいに仕上がるという。
「水質は土壌に由来するんです。阿賀町は94%が森林で地上には広葉樹が落葉してつくられる、自然のフィルターが堆積しています。山に降り積もった雪は、その堆積土のフィルターを通ってきめ細かな水になるんですね。
酒造りに欠かせない良質な水を守るため、弊社では2010年から「森作り事業」をスタートさせ、ブナやナラといった広葉樹の植林を行っています。また、木を植えて終わりではなく、下草刈りなどを行い、木々の管理をしなければなりません。当社でも年に一回社員総出で手入れを手伝っています」
森が育む清冽な水は、人が手をかけてこそ保たれる。水は酒質を決める大きな要素だから、水を守る労苦は厭わない…そんな姿勢が垣間見えた。
■銘酒造りは人の和から
蔵の入り口には「銘酒造りは先ず人の和からはじめよう」という目標が掲げられている。 とはいえ、蔵人は15名、22歳から67歳までと年齢層の幅が広い。それを束ねているのが、常務取締役で杜氏の長谷川良昭さん。
25歳から麒麟山酒造に勤務し、先々代の野積杜氏に厳しい薫陶を受けた。元々は農家だったので米には精通、とりわけ麹造りに力量を発揮しているという。
この蔵では20年ほど前から社員制を採用。現在は全員が通年雇用だ。新人の蔵人は3年間、県の「新潟清酒学校」で研修する機会があり、その後も「新潟清酒研究会」や「新潟酒造技術研究会」などの組織に所属して研鑽を重ねている。
こうした向学心も、人の和という絆から生れるのだろう。