米・水・人のハーモニーで醸す地域密着型の酒 新潟・阿賀町の『麒麟山』に聞く
創業170年の老舗ながら、原料米を確保するため、社内に「アグリ事業部」までつくった。
名峰とうたわれる麒麟山、阿賀野川や常浪川の清流。94%が森林に覆われた阿賀町で、厳しくも豊かな自然環境から生れる地酒『麒麟山』。
その味わいは辛口、一途。創業から170余年、代々の当主は淡麗辛口の酒造りを頑なに守り続けている。
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■地酒蔵の使命、さらりと飲める晩酌酒
地元の人たちが「うめ~な」と言える酒造りこそが、地酒蔵の使命…と話すのは麒麟山酒造の代表取締役社長・齋藤俊太郎さん。天保14年(1843年)創業の同社7代目蔵元だ。
桶や蔵人に囲まれて少年時代を過ごし、その頃から蔵を継ぐのだろうなと思っていたという。大学卒業後は広告会社に勤務し、30歳で自蔵に入社。そして今、代表に就任して10年が過ぎた。
現在の製造量は5500石、その約7割が普通酒で占められるというが、確かなマーケティングの視線はこんな言葉で語られた。
「この地域では酒を飲むことを楽しみにしている人が多いんです。従って地元の人たちに一番喜んでもらえる酒造りが地酒蔵の使命。
毎日飲んで飽きない酒、地域の食文化に合った酒、を考えるとさらりと飲める辛口酒になる。しかもリーズナブルであることが望ましいわけで、必然的に普通酒が一番になります」
■社内にアグリ事業部まで作った理由
地元で求められるお酒を安定供給するためには、まず原料米を確保しなければならない。麒麟山酒造では20年以上前から同社が中心となって地元農家と共同で奥阿賀酒米研究会を組織し、100%地元米使用を目標にしてきた。
年間1万俵必要だったが、当初の収量はその10分の1以下。なんとか目標に近づけようと、2011年に自社内に米作り専門部署であるアグリ事業部を立ち上げ、3人の専従社員もともに栽培に取り組んできた。
現在では、研究会のメンバーは当初に比べて倍増、生産数量は目標の92%にまで到達したという。栽培品種は酒造好適米の「五百万石」「たかね錦」「越淡麗」に一般米の「こしいぶき」。
普通酒の掛米に使用するため、「こしいぶき」の栽培量が最も多い。
「あと2~3年で100%までもっていけると計算しています。課題はそれを維持する仕組み。農家さんの高齢化、後継者問題がありますからね。ここは気候風土などが魚沼と似ていて、栽培環境は良好なんです。だから地域での米作りが続いていくことを念願しています」
地元米採用のメリットはなんと言っても安全性。確かな品質、信頼できる原料で酒造りに取り組める安心感だという。「だから自分たちの商品は、自信を持って販売できます」と蔵元は断言した。