「史上最悪の独裁者」ヒトラーの電話機、オークションに出展
2017/02/23 10:00
アドルフ・ヒトラー。
この男の名を口にしたがる者は極右主義者でない限りほとんど存在しないが、それでも決して忘れてはならない名でもある。
「優等民族の生存権拡大」を掲げたヒトラーは、東ヨーロッパに勢力を伸ばした。その過程でイギリスとフランスから宣戦布告されるも、短期間のうちにフランスを占領。イギリスも首都ロンドンが空爆された。
未曾有の大戦争の最中、ヒトラーはユダヤ人に対する「最終的解決」を指示。ひとことで言えば、ユダヤ人(と認定された人々)をヨーロッパから駆逐することだ。ナチスは当初、彼らをシベリアへ抑留するつもりだったようだが、ソ連軍の抵抗は激しくそのプランは瓦解。ついに毒ガスを用いた抹殺という手段に踏み切った。
その中で、ヒトラーが大いに活用した道具がある。それは電話機だ。
■ベルリンの地下壕で入手
ソ連侵攻もユダヤ人虐殺も、すべてはこの電話機から命令が発せられた。
先ごろ、アメリカ・メリーランド州で模様されたオークションにおいて、ヒトラーが実際に使用していた電話機が24万3,000ドル(約2,800万円)で落札された。購入者の名前は公開されていない。
赤いボディーのこの電話機は、終戦直後のベルリンの地下壕を訪れた英軍関係者が入手したもの。ラルフ・レイナーというこのイギリス人は、バーナード・モントゴメリー将軍の命令でベルリンに派遣されていた。その最中にソ連軍から電話機をもらったという。
ラルフ・レイナーは1977年に亡くなったが、彼の遺産は息子に受け継がれ、此度のオークション出展もその息子の意向で行われた。
■総統命令はこの電話機から
この電話機、本体背面にはナチスのシンボルである「鷲と鉤十字」と「アドルフ・ヒトラー」の刻印が打たれている。
オークション会社はこの商品を「史上最悪の破壊兵器」と呼んでいるが、その表現はじつに的確だ。ヒトラーはこの電話機を2年間使っていたそうだが、その間に東部戦線では「史上最大の戦車戦」クルスク会戦が発生したほか、地獄のチェルカッシィ包囲戦やソ連軍のバグラチオン作戦、西部戦線でもノルマンディー上陸戦やアルデンヌ会戦が起こっている。それらに関係する総統命令をこの電話機が発していたのだ。
もちろん、ユダヤ人に対する「政策」についても触れなければならない。ヒトラーはこの電話機を通して、ユダヤ人の大量虐殺を進めていたはずである。
■「ナチスの話」はタブー
ナチスに関する話題は、ヨーロッパでは非常にデリケートな問題だ。
先日、オーストリアのブラウナウでヒトラーのコスプレをしていたという容疑で、ひとりの男が逮捕された。ブラウナウといえば、ヒトラーの生家がある町として有名である。
オーストリアに限らず、ヨーロッパでは「ナチスを連想させるもの」を禁止する国は数多い。たとえば数年前から進められているのが「名誉市民剥奪問題」である。これは大戦中、ヨーロッパの各自治体がヒトラーに名誉市民称号を与えていたという問題で、人口の少ない中小都市などでは今でもヒトラーが名誉市民のままの場合がある。もちろん、それが発覚次第称号は剥奪される。
ヒトラーの影は、今も消滅していない。むしろ時を経るごとに、その影が大きくなっているようにも思える。
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(取材・文/しらべぇ編集部・澤田真一)
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