デジカメ市場に熊本地震の後遺症 品薄状態は今なお…
2016/09/20 05:30
熊本地震の後遺症は、今もあらゆるところに影を落としている。
被災地とその周辺地域は、モノづくりの盛んな場所でもあった。地震によりデジタルカメラの部品生産拠点が一時操業を停止し、復旧後もその遅れが取り戻せない状況だという。
そのため、今年中頃からの新製品発売スケジュールにも大きな狂いが生じた。
■特異な進化を遂げるデジカメ
現在、デジカメ製品はスマートフォンに押されて市場が縮小傾向にある。
だからこそ、各社はここ数年でデジカメの「ガラパゴス化」を促進。すなわち、スマホには搭載することのできない機能をデジカメに与えた。その流れの中で誕生した製品種類をひとつ挙げると、「ネオ一眼」だ。
もっともこの呼称は当初富士フイルムが提案したものだったが、今では「レンズ一体型、電子ビューファインダーの一眼タイプ」のカメラが総じてネオ一眼と呼ばれている。
この種のカメラの特徴は、望遠機能が優れていること。たとえばニコンの『COOLPIX P900』は、光学83倍ズームをすでに実現させている。電子ズームを使えば、そこからさらに4倍増しの望遠撮影ができるのだ。
このP900は去年、ある種のブレイクを巻き起こした。中には商品レビューと称して、嘉手納の米軍基地を撮影する人物まで現れたほど。
デジカメは、まさに「ガラパゴス諸島の動物」となりつつあった。
■コンデジ市場の惨状
だが、熊本地震がデジカメ市場の特異な進化にストッパーをかけてしまったのだ。
先述の通り、主要メーカーが頼りにしていた部品調達先が軒並み被災。市場への製品供給が完全に停止してしまった。
工場は、当然だが年間スケジュールに沿って稼働している。計画休日ではない「突如の休業」は、その年度のスケジュールそのものを台無しにしてしまう。
大手家電量販店の店員曰く、ソニーのコンパクトデジカメは最も深刻な状態だという。ソニーは熊本県菊池郡にあるイメージセンサーの生産施設が停止したため、年間計画の大幅な変更を余儀なくされた。そしてこれはソニーに限ったことではないが、今現在の生産ラインは一眼レフ優先に振り分けられているそう。
■工場と自治体
以上の理由で、日本のデジカメ市場は品薄状態に陥っている。
その上、冒頭にも書いたように新製品の発売も遅れているのだ。工業製品は、天災に対して極めて弱いことが露呈してしまった。どの製品も四半期程度の発売延期を余儀なくされている。
熊本地震は、それほどまでに巨大な自然災害だったのだ。
また、工場は地元に大きな利益をもたらしていることも忘れてはならない。地方自治体にとって、大手製造メーカーの工場ほどありがたいものはない。ケタ違いの税収に加え、地元の祭りや催事に対しても資金を供給してくれる。数百人単位の雇用も生み出し、工場へは発展途上国の政治家が見学にやって来るのだから。
工場の死は、同時に地方自治体の死でもあるということ。だからこそ我々は、「工場防災」について真剣に考えなければならない。
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(取材・文/しらべぇ編集部・澤田真一)
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