離島への冒険旅行の数々⑥〜黒島の旅、最終回〜【溜池ゴロー、子育てこそ男の生き甲斐】

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目の前の無数のゴキブリを前に、ワシは新聞紙をギュッと両手で丸めた。これから、エイリアンの大群のように天井の隙間から押し寄せてくる巨大ゴキブリとの戦闘がはじまる。

その前の日、息子(当時3歳)が石垣島で40度近い熱を出したのだが、ワシら夫婦は黒島への渡航を強行。

そして、多くの牛と野生のクジャクたちをかき分けながら、やっとのことで宿泊先のログハウスに到着した……。しかし、そこでワシらを待ち受けていたのは、大量のヤモリと、背中に不気味な模様のある巨大ゴキブリたちだった…。


いまだ熱に浮かされベッドに横になっている息子と、ゴキブリにおびえる妻を守るために、ワシは丸めた新聞紙を持って、戦闘態勢に入りながらこう考えていた。

いままで出会ったゴキブリはすべて動きがやたらと速い。なかには飛ぶヤツまでいた。

生まれてから多くのゴキブリと戦い、たたきつぶしてきた経験から言うと、ゴキブリとの勝負は、相手に気づかれるか否かにかかっていると言っても過言ではない。

逃したら最後、すさまじく速い動きで逃げてしまう。そして、ふたたび食料を求め戻ってくることになるだろう……。

ワシは知っている。なぜ、ゴキブリが多くの人間から気持ち悪がられているか……それは、あのゴキブリの「動きの速さ」にある。

きっと、もしゴキブリがカブトムシくらいの速さなら、ここまで嫌われはしなかったのではないか。逆に、カブトムシがゴキブリくらい速さで動くなら、ここまで子供たちのアイドルにはなっていなかったはずだ。

いま、あんなに大きなゴキブリたちが目の前の天井からいっせいに落ちてきて、すさまじい速さで動きまくるとしたら……これはとんでもないことになる……ワシの体に緊張が走った。しかし、ゴキブリの数は増える一方だ。

ワシは作戦を練った……もしゴキブリを直接狙い、天井に新聞紙をたたきつけたとしたら、きっと多くのゴキブリが一度に落ちてきて、ワシひとりでは戦いきれないだろう。

ならば、天井から落ちてくるのを待つか、1匹ずつ落し、落ちてきたと同時に確実に仕留める。こんな作戦だった。


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■ついにはじまるゴキブリとの闘い。しかし、この島はゴキブリまで遅い…?

そして、ワシはなるべく眠っている息子の頭上から遠い場所の天井に這っているゴキブリを払おうと、椅子に乗り、新聞紙で注意深く払ってみた……が、ワシが考えているほど、ことは甘くはなかった。

1匹のゴキブリが天井から落ちると、それに連鎖して他のゴキブリたちも数匹同時に落ちてくるではないか!

ワシは、大慌てで椅子から飛びおり、目に見えたゴキブリから叩き潰しにかかった。これだけのゴキブリにいっせいに逃げられてはとんでもないことになりそうだ。ワシは目の前のゴキブリを思いっきりバシッと叩いた!

そして、その取って返した刀、ではなく新聞紙を、逆側に落ちたゴキブリに叩きつけ、そして別方向に見えたゴキブリを叩き、遠くに落ちたゴキブリにも新聞紙を振り下ろした……ん??? なんかおかしくないか?

落ちてきたゴキブリをすべて退治したのはよかったのだが、なぜかしっくりこないのでよく考えると……そうか!この大きなゴキブリ達は、動きがやたらと遅いのだ!

まるで叩いてくださいとでも言うように、動きが遅すぎる。背中に気味悪い模様を持ち、あまりにも巨大な図体をしている黒島のゴキブリたちは、まるでカブトムシやクワガタのように動きが遅いではないか!ワシは思った……

「そうか、黒島は牛も人もノンビリしているが、ゴキブリまでもそうなのか」

……と。いかにも黒島らしいではないか。そう思うと、ゴキブリも少しかわいげのある生き物のように感じるワシだった。

少し余裕のできたワシら夫婦は、ゆっくりとゴキブリを追い払いながら、食べ物の残りを片づけ、息子の看病に戻った。

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■元気に動き出した息子を連れてウミガメ研究所へ

そして翌日の朝、雨は上がっていた。息子の熱も37度台くらいにはなっている……。その朝、ワシら夫婦は、まだ熱があるものの元気に歩き出した息子を連れて、あちらこちらに牛やクジャクの姿を見ながら、あたりを散歩した。

途中、ウミガメ研究所というところがあったので、立ち寄ってみる。そこには、数多くのウミガメがいた。

黒島では、時期によってはウミガメの産卵が見られるらしいとのこと。息子は、水の中に何匹もいるウミガメを興味深げにのぞきこみ、興奮しながらなにやら一生懸命に話しかけていた。

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ワシも一緒にウミガメを見ながら、若いころに見たウミガメの産卵風景を思い出していた……。

27か28歳のころのことだ。まだテレビ番組の助監督だったワシは、コスタリカという地球の裏側にある国での撮影で、ウミガメの産卵を見たことがあった。

コスタリカの海岸線では、何万匹というウミガメが必死になって卵を産む。当時のワシは、その無数のカメたちのなかで、自然と地球の偉大さに涙しそうになりながら、助監督の仕事で走り回っていた。

ワシは、ウミガメを見ながらはしゃいでいる3歳の息子を見ながら、そんな自分の若いころのことに思いをはせていた。

そして心のなかで……「息子には、地球規模の大きな器の男になってほしい」と願っていたのだった。

こうして、牛とクジャクとヤモリとゴキブリとウミガメとの、なんとも不思議な黒島での2日間が終了。ワシらは次の離島へ渡るために船にふたたび乗った。


いまとなって考えれば、熱をだした息子をこの島で看病したことは、ワシら家族にとっては非常に有意義な体験だったと感じられる。この経験も、息子が成長していくうえでの、ひとつの重要な要素だったかもしれない。

ということで、今回は以上。次回は別の離島でのことを書くことにする。

(文/溜池ゴロー

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Sirabee編集部

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