食ツウが教える「コロッケそば」の味わい方【マッキー牧元の世界味しらべぇ】
コロッケそばを前に、久々の対面に、私は問うた。
「お前はなにゆえに存在しているのか」
いったい、誰が発明し、この世に生を受けたのか。
「コロッケも天ぷらと同じ揚げもんだし、のせちまえ」
コロッケをかけそばにのせるという勇断は、こんな他愛もない思い付きから始まったのかもしれない。そこで食べてみたらケッコウいけていて「俺って天才かも」と、一人錯覚し、酔ってしまったのであろう。
しかし、コロッケである。てんぷらや海苔、かまぼこや鶏肉とは、わけが違う。フランス人が、入谷でおでん屋を開いているようなものではある。わけがわからない。無理がある。クロケットとしてフランスに生まれ、日本で姿を変えて愛された彼は、まさか自分が“かけそば”の上にのせられようとは、微塵にも思わなかったに違いない。数奇な人生である。
※画像はクロケット(wikipediaより)
だが考えてみよう。芋の甘みはつゆと合わず、パン粉の衣も醤油と合わない。コロッケはつゆを吸って、本来の魅力である歯触りをなくし、別の物体へと変化していく。
いかにしてコロッケそばをおいしく食べるべきか、その研究結果が以下である。実食は、コロッケそば発祥とされる、「箱根そば」ではなく、中野「かさい」で実施した。
画像をもっと見るいざ実食
①運ばれたら、直ちにそばの下へ、コロッケを収納する。
②コロッケそばを頼んだことを忘れ、自分が頼んだのはかけそばだと信じ込んで食べ進む。
③そばを食べている間、間違ってもコロッケには箸をつけない。
④やがて丼の底から現れるコロッケとの再会を喜ぶ。
⑤コロッケを四等分する。
⑥コロッケをさらに突き崩し、つゆに溶け込ますよう試みる。
⑦残すつゆの量は、コロッケ1に対し、つゆ3が好ましい。
⑧つゆとコロッケを同時にすする。
⑨別技として、玉子を注文し、黄身を最後までつぶさないようにそばを食べる。最後に黄身をつぶし、コロッケと絡める(ここで七味を大量にかける「韓国式」もある)。
⑩また腹に余裕があれば、4等分した内、ふた切れをおかずにして、別注したおにぎりを食べてもよい。
⑪番外。コロッケ二個技もあり。その際、1個はそのまま、1個は「黄身ソース」か「韓国式」で楽しむ。
以上手順を示した。
では次にメリットをあげてみる。
①立ち食いそば屋のコロッケは、つゆが滲んでも崩れぬよう固く作ってあるので、食べにくい。ゆえにつゆを染み込ませる。
②つぶしたコロッケとそばつゆとの、思いもかけぬマリアージュが楽しめる。
③丼の底から、忘れていたコロッケが現れ、二重の食べる喜びを享受できる。
④形あるコロッケを、いたぶる喜び。
どうだろう。実はこの食べ方には様々な真理が隠されているのです。それゆえ僕は、今日も丼の底に隠して、最後に悠然と食べ(隣人の視線は気にはなるけどね)、一人悦に入るのである。
(文/マッキー牧元)